1920年以降に登録した放射線科医では一般人に較べてすべての原因による死亡が低くなっている。社会階層1の男性や男性臨床医と比較しても同じことが言える。しかし、登録年度による分類で見ると、1955-1979年に登録された者にのみに有意な低下が見られる。この群の死亡率は男性臨床医と比較して低いが、これはがんやその他の原因による死亡者の数が少ないせいである。この低い死亡率は少なくともその一部は、追跡が他の群ほど十分に長く行われていないため健康労働者効果がまだあるせいだろう。
1920年以降の登録者では男性臨床医と比較してすべての原因による死亡は低いが、がんに限れば、あまり違わない(表1)。この登録者群では登録以来の時間経過にともない、がんの死亡SMRが上昇し、40年以上経過時で見るとSMR1.41となっている(表2)。そのような傾向は他の原因による死亡では見られない(表5)ことから、これは調査による所産ではない。この上昇は1921-1935年および1936-1954年に登録した医師によるものである。これらの群の医師は1955年以降に登録した医師より高い線量を被ばくしているだろう。またこの中で最も高いSMRは登録から30-39年と40年以上を経過した群に見られる。これはこの時期になると最終的な被ばく総線量に到達している人が多いせいだろう。
部位別のがん死亡率で最も大きなリスクを示したのは白血病(SMR=1.88)と前立腺がん(SMR=1.26)である(表3)。白血病のリスクの上昇はアメリカでの調査(一般内科医に対して1920-1929年登録放射線医ではSMR=2.59)や、中国での調査(1926-1985年の登録放射線医ではSMR=2.4)でも得られている。アメリカでの調査では前立腺がん(SMR=1.33統計的には有意ではない)におけるわずかなリスクの上昇も見られた。中国では前立腺がんの発生は一般的ではないので調査にも現れない。原爆生存者やX線治療を受けた強直性脊椎炎の患者に見られるように、急性の高線量被ばくは白血病を引き起こす。前立腺がんのリスクは白血病ほどはっきりしていない。原爆生存者では前立腺がんのリスクは増加していないが、強直性脊椎炎患者では小さいが有意な増加が見られる。
以前には報告されていない部位のがんでは非ホジキンスリンパ腫が明らかに有意な増加を示し、多発性骨髄腫が有意ではないが増加を示した。日本の最近の原爆生存者の調査では男性にのみリンパ腫(ホジキンス、非ホジキンスとも)が増加しているが、一方以前の調査とは異なり多発性骨髄腫は増加していない。アメリカの初期の放射線医と強直性脊椎炎患者では非ホジキンスリンパ腫が増加しているが、中国の放射線科医の場合には増加はない。