3-3がん死亡率

 
 前には中国の研究グループの成果として高自然放射線地域でがん増加が見られないこと、これの40〜70歳の白血病を除くがん死亡率は高自然放射線地域のほうが有意に低い、と述べました。しかし、これはこの研究で1番注目されるところですから慎重にやらねばなりません。そこで私達は3つのことをしました。1つはがんの診断の確認をしっかりやるとともに、その根拠を調べ信頼性のレベルを明らかにすることです。今まで1枚の死亡届けによっていたのを、その死亡届をもとに専門の医師のグループが患者の掛かった病院や医師を尋ねその患者の病気についての詳細な調査を行い、それを定期的に委員会で検討して最終的にがんかどうかを確定するという手順をとりました。その為の調査用紙は数枚に及びました。次は高自然放射線群とコントロール群とを単に比較したのでは必ずしもその違いが放射線によるとは言えないので、高自然放射線群をさらに3分し、線量の増加とがん死亡率との関係の有無を調べることにしました。最後は追跡する集団を1987年1月1日現在の住民に固定し、それをコホートとして追跡調査することにしました。こうして作られた4つの線量群の線量(外部線量)とその人数を表2に示します。

 

 

 がん死亡率についての統計処理は本来の1987−1995年ものの他に、1979年以降の分がコンピュータに入力されているので、この方が人・年が大きいのでしれも合わせて行いました。前者が表3、後者が表4です。

 

 表3からは、高自然放射線地域と対照地域とを比べた全がん死亡率の相対リスクは0.96で、その信頼区間は0.80−1.15であることが分かります。この数値から高自然放射線地域の全がん死亡率の方が対照群に比べてやや低いように見えますが、勿論統計的に有意ではありません。相対リスクをがんの部位別に見ますと、相対リスクが1より大きいのは、白血病、鼻咽頭がん、食道がん、腸がんです。しかし、これらは何れも統計的に有意な増加ではありません。相対リスクの線量効果を見ると、全がん、全固形がんでは線量が増加すると相対リスクが減少するように見えます。これに対して、白血病、食道がんは線量が増加すると相対リスクも増加するように見えます。しかし、これらは何れも統計的に有意ではありません。

 

 

 表4では、高自然放射線地域と対照地域のがん死亡率の相対リスクは全がん、固形がん共にほぼ1(0.99)で、その信頼限界が表3のものより更に小さくなっていることが分かります。これは調査対象の人・年が増加したからです。ここでは食道がんの相対リスクが1より大きく信頼区間も1より上にありますが、線量の増加とともに死亡率が増加する傾向は認められず、高自然放射線への被ばくとは関係がないものと解釈されます。

    

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