どうすれば良いのか
最近のUNSCEAR報告書の補遺GでLNTを支持する根拠として以下のような3点を挙げている。
- 電離放射線によるDNA傷害は自然発生のものと異なっている。
- 放射線照射による複雑なDNA傷害の修復は「間違いを起こしやすい」。つまり変異か細胞死を引き起こす。
- DNA傷害の数と転移性のがんの発生は比例している。
これらの主張の正当性を確認するためには
- 複雑な傷害パターンを示す線種を用いた実験をする。(高LETの作用)
- 全くの一個の細胞だけの照射によるDNA傷害を評価する
- 大量の影響を生じるように十分量の(数百mGy)線量を高線量率で照射する
- 影響の追跡を十分に長く行う
などが考えられる。これらの基準に適合するα線照射の影響についてのヒトと実験動物のデータがあるので見てみよう。
- ラジウム時計盤塗装工にみられる骨肉腫
追跡は半世紀にもわたり、被爆線量もかなり正確に評価されている。α粒子は高LETで飛跡のまわりにエネルギーを与える。染色体を通過する際20カ所にもおよぶ傷害を与える。そこで生じるDNA配列の欠失や変化はしばしば電子線の通過によるDSBより修復が困難だ。α粒子の大きなREB(相対生物学的作用係数)は「間違いのない」修復の効率が悪いせいだと考えられている。
低LETの場合とは異なり、α粒子による傷害はかなり大きなエネルギーが限られた少ない数の細胞に与えられることによるので、照射を受けない隣接細胞中の被照射細胞の応答を見ることができる理想的な実験系となる。
データでは骨肉腫の発生では骨線量4-6Gyがしきい値となっている。イヌを用いた実験でも明らかなしきい値がみられる。このしきい値は動物種や用いた核種によって0.5-10Gyにわたる。
- トロトラスト注射による肝細胞腫瘍
トロトラストは1930-1950年代に用いられた放射性造影剤のこと。2Gy以下では特に増加はしていない。
- ラドン被曝と肺ガン
世界の国々の坑夫の11のコホート調査のデータがあるが肺ガンのリスクはそれぞれの調査毎にかなり差異があり、以下のような不確実な点で疑問が残る。
このような低線量での発ガンリスクの低下を説明する二つの仮説
- 低線量域では修復が効果的に行われる。
- 被照射細胞は正常な細胞に取り囲まれているので、増殖が制御される。疫学的には1つではなく、複数のα粒子が通過した細胞が変異をおこす確率が高い。2番目の仮説を支持する考え方がある。いくつかの被照射細胞が生じる不均一な照射(例えばα線)より隣接する細胞も照射を受ける均一な照射(例えば中性子)の方が発がんの発生確率は高い。中性子はより大きなLETをもつα線より、約7倍もガンの発生確率は大きい。つまり隣接する細胞も含めて照射を受ける場合に発ガン確率は高くなるかも知れない。
結論として、1つのα粒子の通過ではDNAの修復が効果的に行われれるために発ガンは見られな い。しかし複数の通過では飛躍的に上昇する。これらのデータはLNTに反する。このことはX線などの他の放射線にも当てはまるだろうか。
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