LNT仮説はホルミシスの現象―つまり、小さな放射線量によって刺激を受け防護する効果で、適応応答とも呼ばれる―とは相容れないものである。藻類におけるホルミシス効果については、100年以上前にすでに最初の報告があった。もっと最近になって発表されたホルミシス効果の中には、原爆被ばく生存者では明らかに通常よりも白血病発病率が低く、寿命も長いというものもある。放射線ホルミシスについて2000篇以上の科学論文が発表されていたにもかかわらず、この現象は第二次世界大戦後ずっと忘れられていて、放射線防護の取り決めでは無視された。放射線ホルミシスの存在そのものをUNSCEARが認め、支持したのは、やっと1994年になってからのことである。それによって、放射線学の倫理的および技術的基礎の革命的な変化が起こった。
多くの放射線学者たちは、放射線の理論的な(実際には想像上の)健康への有害な影響に対して、自分たちが示している過剰な反応が、本当の健康問題に取り組むために喉から手が出るほど渇望されている資金を浪費してしまっていることになるという意味で非倫理的だということを理解するようになった。一般市民のいわゆる放射線防護にしきい値なし直線仮説を適用することは、原子力設備の制限という不当な要求、米国やその他の国々において環境に優しい原子力エネルギーの開発を事実上抑制してきた。私自身の国であるポーランドでは、最初の発電用原子炉の建設に数十億ドルを費やした。だが、政治的に動機づけられたLNT理論による世論の操作と思われるもののために、計画は中止されることになってしまった。
西欧の産業社会において現在の放射線防護規準により生命が救われているとすると、ひとりひとりにおよそ25億ドルを要しているという見積りになる。このような出費はばかげていて非倫理的である。特に、はしかやジフテリア、百日咳に対する予防注射によって生命を救うのにかかる比較的安い費用と比較すると、その印象が強い。発展途上国では、1人の生命を救うのに、たった50ドルから99ドルの費用を必要としているだけなのである。放射線から人間を仮想的に防護するために何十億ドルもの費用が実際に毎年費やされている一方で、貧しい国々で本当に生命を救うためのずっと小さな財源は、怒りを覚えるほどに不足しているのである。
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