チェルノブイリ事故の影響を受けたベラルーシ、ウクライナ、ロシアの1500万人の人々に見られる心身症的障害1)は、電離放射線が原因とは考え難く、むしろほんのわずかな人工放射線でも害を及ぼすという仮説を世間一般の人々が信じていることと関係があるのではないかと考えられる。この仮説は、1950年代に放射線防護および原子力の安全性に関する規制のベースとして用いられたものである。
旧ソ連政府の特別委員会が、チェルノブイリ事故の放射性降下物による1986〜95年の平均放射線量が6〜60mSvとなると予測された多くの地域から27万人以上の人々を避難・移住されることを決定した際にも、同じ仮定に基づいて予測された。ちなみに、個人が生涯に受ける自然放射線量は世界平均でおおよそ150mSvである。旧ソ連のチェルノブイリ汚染地域では生涯に受ける線量は210mSvであり、一方、世界には占領が約1000mSvといわれる地域がたくさんある3)。これだけ多数の人々が、汚染していると推定された彼等の土地から強制的に退避させられたことについては、倫理的な詳細検討が必要となる。この退避行為や、その他放射線に関する政策について物理的及び倫理的根拠を調べることが、この記事の論文である。
この30年間に渡って発展してきた放射線防護の原理と概念の勧告は、道を迷い、規準が厳しくなりすぎて非実用的なものになってしまったように思われる。これらの原理と概念の改訂を現在提案している科学者達や組織の数は、しだいに増えつつある。国際放射線防護委員会(ICRP)、保健物理学会、そしてフランス科学アカデミーの議長を務めるクラークもその1人である。さらに1999年4月、国連原子放射線の影響に関する科学委員会(UNSCEAR)は、基本的な線量測定及び生物学的な基本概念と、放射線防護に一般的に適用される量の改訂の可能性について研究することを決定した。ここ数年のうちには、このような再評価の活動は、私は望ましいと考えているが、放射線防護に対する世界規模での動きの引き金になるかもしれない。
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