ラドン療法

 バードガスタイン(オーストリア)での坑道療法(金鉱の採掘後にできた坑道を利用した療法で、内部はラドン濃度が高く、高温多湿でもある)は、日本でのみささ三朝(鳥取県)の温泉療法とともに、ラドン療法として世界的に有名である。適応症としては、表2に示すような疾患に対してその有功性が確認されている。ラドンがなぜ有効なのかはいまだ明確ではないが、近年、培養細胞あるいは動物を用いた実験からラドン療法によるこれらの適応症について科学的解明がなされつつある。

 

表2 ラドン療法のおもな適応症

 

  • ベヒテレフ病(強直性脊椎炎)
  • 慢性多発性関節炎(慢性関節リウマチなど)

  • 変形性関節症
  • 変形性脊椎症(ヘルニア)

  • 喘息

  • アトピー性皮膚炎

  • 神経痛、慢性神経炎
  • 歩行系損傷後のリハビリ(筋肉疾患など)

  • 老人性疾患

 

 その一つとして、放射線分解によって生体内に生じた少量の活性酸素種が、解毒、細胞代謝、ミトコンドリア内でのエネルギー変換、酵素などのタンパク質や生理活性物質の生合成などの種々の過程に刺激(情報伝達因子)として作用した結果と考えられている。また、SOD活性がラドンの曝露によりウサギなどで増加する(文献1)ことから、ラドン療法によるSODの誘導合成の関与が示唆されている。さらに、リウマチ、関節炎、筋肉痛、神経炎に対する有効性は、ラドンからの低線量放射線(おもにγ線)が脳下垂体を刺激して副腎皮質刺激ホルモンの分泌を賦活化する。あるいは図3に示すように、痛みの知覚や中枢処理での補助伝達物質としての役割を果たすサブスタンスP/カルシトニン関連神経ペプチドの産生を賦活化することに起因するものであると考えられている(文献2)。

 

図3 ラドン吸入前後のラット気管支中のサブスタンスP濃度の変化(文献2より)

 

 他方、三朝温泉地区の屋外の大気中ラドン濃度は26Bq/m3(Bq(ベクレル)は1秒間に1個の原子核が崩壊する放射性物質の量を表す)であり、対照地区(三朝温泉周辺地区)の2.4倍である。M.Mifuneらは三朝町のがん死亡率を調査し、結果を表3のようにまとめている。三朝温泉地区では、男女ともがんによる死亡率が全国平均より有意に低く、対照地区のそれと比較しても低かった。また、ラドン吸入が影響するといわれている肺がんによる死亡率も、三朝温泉地区では対照地区に比べ低いと結論している(文献3)。つぎに、がん死亡率が低くなる原因が温泉の温熱効果や化学的効果によるか否かを確かめるために、Y.Suzukiらはラドン温泉でない別府温泉(大分県)を対照として同様の調査を行った。その結果、別府温泉では、その周辺地区との間でがん死亡率に差がないことを明らかにしている。したがって、上記のがん死亡率の差には、ラドンが関与していると考えられている(文献4)。

 

表3 三朝ラドン温泉地区住民のがん死亡率
(全国平均を1.000とした比較表 1952年〜1988年の調査(文献3より))
がん死亡率
(対象者数)
三朝温泉地区
(3,400人)
温泉周辺地区
(5,500人)
全がん
男性
0.538
0.850
女性
0.463
0.770
肺がん
男性
0.475
0.926
女性
0.187
0.369

 

    

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