岡山大学医学部医用放射線科学研究室助教授
山岡聖典1)

岡山大学附属病院三朝分室講師
御舩尚志

 要 約

 
 本総説は、本邦で実施している三朝ラドン温泉の適応症に関する機構解明に資するために調査した欧州におけるラドン療法の医学的研究に関する最近の動向の概要についてまとめたものである。すなわち、ラドンを用いた温泉や坑道での療法の適応症には、脊椎の非細菌性炎症(ベヒテレフ病)、慢性多発性関節炎、気管支喘息などが含まれる。臨床医学的研究として、以前、客観的方法で検討されたものはほとんどなかったが、最近、無作為化二重盲検臨床試験などにより、ラドン療法がベヒテレフ病、慢性多発性関節炎などの患者の痛みを緩和される効能があることが実証されつつある。また、基礎医学的研究として、抗酸化機能や免疫機能などの指標に着目した動物実験により、ラドン療法の機構を解明する上で合理的根拠が得られつつあることもわかった。さらに、これらの知見と本邦での研究動向を踏まえ、今後、期待されるラドン療法の機構解明を行うための研究課題を提案した。

キーワード:ラドン療法、適応症、活性酸素、二重盲検試験、バードガスタイン

 緒 言

 
 アルプス連峰に囲まれたバードガスタイン(オーストリア)の町は、風光明媚、夏は避暑、アウトドアー活動の拠点、冬はスキーのメッカとなる。ホテルの多くは17のラドン温泉から温泉を引いたプールで治療浴などができ、年間訪問者の滞在件数は約180万件にのぼる。この町の中心から南へ約10qのところに、ハイルシュトーレンと呼ばれるラドン療法のできる坑道があり、ここには年間約1万人の患者が訪れ、そのうち70%はドイツからと言われる。

 ここでの療法は、日本での三朝(鳥取県)温泉療法とともにラドン療法として有名である。インスブルック大学医学部などのグループは、このラドン坑道療法施設とその関連研究機関(ガスタイン・タウエルン地域研究所)においてラドン療法の医学的研究を進めるとともに、欧州における関連研究の成果を総括している。特に、同研究所では、委員会方式で約30年に亘り欧州各地の関係研究者の成果を実に膨大な資料にまとめている。

 筆者らは、これらのうち、我々が研究する上で重要と考えられる情報や資料について直接、聴取・入手することができた。本総説は、本邦で実施している三朝ラドン温泉の適応症に関する機構解明に資するために調査した欧州におけるラドン療法の医学的研究に関する最近の動向の概要についてまとめたものである。さらに、これらの知見と本邦での研究動向を踏まえ、今後、期待されるラドン療法の機構解明を行うための研究課題について提案している。なお、一部は、既に速報としてRadio-isotopes誌に掲載されている。

    

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