そもそもの始まりから、生命は放射線の中で適応し、進化してきた。これらの放射線は宇宙からやって来るか、あるいは地殻に地球創成以来存在する物理的半減期の非常に長いトリウム、ウラン、カリウム、ルビジウムといった元素の不安定な同位体から放出される。こうした体内や外部の様々な線源からの放射線に人類は被ばくしている。
環境中に存在する放射性核種によりヒトの体内には平均10,000Bqの放射能が蓄積される。それは主に炭素-14とカリウム-40によるものである。カリウム-40の量は細胞内カリウム濃度のコントロール機能(ホメオスタシス)に依存する。ヒトの自然からの被ばく量の平均は実効線量として年2.4mSvと見積もられている。この線量は標高や地中の岩や土の物性に依存しており、一般に1mSvから10mSvの範囲で変動し、インドのKerala
やイランのRamsarなどでは100mSv以上に達する。この変動には、被ばくを受ける生体内の組織の違いもある。ラドンに対しては肺、ウランには腎臓、ラジウムには骨、トリウムには骨と肝臓や全身の食細胞といった具合である。このトリウムの場合は、体内での挙動や放射線特性がプルトニウムによく似ている。19世紀末にこれらの自然放射線に加えて、年1mSv以下から20mSvを超える幅を持ち、平均年1mSvになる医学的診断のための被ばくが加わった。
最後に、1950年以来工業的に作り出される放射線を付け加えるべきだろう。主に原子力による発電(ウランの抽出と処理、原子炉の稼動など)によるものであるが、年0.01-0.02mSvに相当する。また、石炭の抽出と燃焼によるものは年0.01mSvになる。さらに大気中に放出されるものは年0.005mSvであり、チェルノブイリ事故では約0.002mSvと見積もられる。線源が天然のもの由来であろうと人工のもの由来であろうと、種々の電離放射線の生物学的影響の線量-効果関係は同一である。
フランスにおける200,000人の放射線従事者の平均年間被ばく線量は2mSvで、20mSvを超えるのはその中の1%以下である。診断用を除けばこれらの被ばくは低線量率、慢性的被ばくという特徴をもつ。これは数分間で数mGyという少ない吸収線量で瞬間的に傷害を受けた分子が蓄積し、細胞の修復メカニズムを混乱させてしまう高線量率の事故や治療目的の被ばくとは明らかに異なる。
原子力発電所の解体や核燃料廃棄物の貯蔵は人々の極低線量率の被ばくを若干増加させる。例えばヨウ素-129の場合、0.005μSv になる。これは長寿命の人工放射性核種が食物連鎖に取り込まれることによってもたらされるもので、(カリウム-40の場合のように)全身に均一の被ばくを与えるか、ウラン、トリウムの場合のように大腸、骨、肝臓、腎臓などの特定の臓器の被ばくがもたらされる。したがって、何百万という住民が被ばくしている自然に由来する放射線源による既知のものから人工放射性核種のヒトの健康に及ぼす影響の可能性を推測するのは正当である。
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