細胞情報伝達 低線量放射線照射による胸腺での遺伝子発現の変動の多くは伝達経路のシグナル分子の変動に大きく関連している。低線量照射による胸腺細胞の活性化において少なくとも2つの情報伝達経路が関与していることが明らかになった[3,8,9]。Ca2+-PKC(カルシウム-プロテインキナーゼC)経路とcAMP(サイクリックAMP)経路である。低線量X腺照射でCa2+-PKC経路は活性化され、cAMP経路は抑制されることがわかった。図2Cに低線量と高線量の全身照射によるこれらの経路のシグナル伝達を示した。リンパ球での情報伝達で考慮すべきもうひとつの経路はプロスタグランジン(PG)系である。PGEはIL-2の作用に拮抗的に働き、cAMPの生産を促進することによって免疫反応を抑制する。PLA(ホスホリパーゼA)はPGを産生する[10]。Cの10列目にあるようにPLA2活性は0.075Gyで抑制され、2Gyで亢進する。 このように3つのシグナル経路が作用しあい、細胞の活性化に関与するIFN-γやIL-2などの一連の遺伝子の発現をつかさどる転写因子NF-kBの核内への移行をコントロールしている。実際はもう少し複雑だろうが全身照射後24時間でのシグナル分子の発現の線量-作用の関係を図6に示してある。 転写因子NF-kBはおそらく低線量放射線照射による細胞の応答や活性化に関与する共通の因子のひとつだろう。Rel/NF-kBを構成するp65/p50と p50/p50の二量体の比が細胞への影響を決定する[11]。p65/p50 は遺伝子の発現を促進し、p50/p50は抑制する。またCREBは免疫細胞の遺伝子発現に抑制的に働く。p50/p50に対するp65/p50の比とCREB のDNA結合活性の線量-作用曲線は逆の傾向を示している(図7)。このように細胞内シグナルにおいても線量による逆の作用がみられる。
ホームページに関するご意見・ご感想をこちらまでお寄せ下さい。 |