細胞の生存と増殖

 放射線の最も明らかな影響のひとつは細胞の生存と増殖に対する抑制作用である。これは0.5Gy以上で見られ[1]、0.5以下では反対に増殖の促進が見られる。全身照射後の脾臓細胞[2]や培養EL-4細胞によって示された。そして逆J型の線量-作用曲線が考えられた(図1)。増殖に対する低線量(0.075Gy)、高線量(2Gy)の作用が生存と増殖に関与するmRNAとタンパクの発現によって分子レベルで示された(図2)。

 

図1 照射後のEL-4細胞の増殖

 

図2 低線量または高線量による全身照射後の変動
A 細胞の生存に関する遺伝子mRNA(奇数番号:胸腺、偶数番号:脾臓)
B 細胞の生存に関する遺伝子タンパク(10と14はパイアー斑、それ 以外はすべて胸腺)

C

胸腺におけるシグナル伝達分子
D インターロイキン遺伝子mRNA(奇数番号:胸腺、偶数番号:脾臓)

 

 この図では2時間後のmRNAレベルと24時間後のタンパクレベルが示されている。このタイミングは一般的な発現のピークのタイミングだが、実際のデータではピークが前後にずれることもある[3]。図2Aには胸腺(奇数番号)と脾臓(偶数番号)における5種類の遺伝子、c-fos,c-myc,bcl-2,p53,ICEの発現レベルを示す。変化の傾向は低線量(0.075Gy)と高線量(2Gy)では明らかに異なっている。細胞死(アポトーシス)抑制遺伝子bcl-2は2Gyでは50%以上も抑制され、0.075Gyでは発現が誘導される。

 一方、アポトーシス誘導遺伝子ICEは胸腺では逆に2Gyで約2倍の発現がみられる。c-fosの発現は0.075Gyの全身照射で30分後に4倍の速やかな応答がみられ、2時間後に75%の増加となる[3]。Bは胸腺でのタンパクの変動を示しているが、高線量と低線量では反対の影響がみられる。c-mycは例外のようにみえるがこの場合でも高線量では大きく増加するが、低線量ではほとんど増加していない(3列目)。最も顕著な変動はBadの発現でみられる(2Gyで300%以上の増加、0.075Gyでは60%の減少、8列目)とBcl-X/Bad比(0.0075Gyで200%の増加、2Gyで90%以上の減少、9列目)。

    

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