ICRPは、「防護の最適化」という用語は残しておきたいと考えており、「防護の最適化」は個人にも集団にも適用している。しかしながら、「防護の最適化」が適用されるのは、拘束値で定義されている個人線量制限を満たした場合のみである。また、この用語は現在、あらゆる状況を考慮して、単一の線源から防護するための最適レベルを達成する過程を説明する短い表現になっている。
ICRPは、Publication77(ICRP 1998a)の中で、従来の手順は公式の費用・便益分析とあまりにも緊密につながっている、と述べている。平均線量と集団の構成個体数の積、すなわち集団線量は数学的な意味は明らかであるが、過度に情報を集中させることになるので利用されるのは限られている。意思決定のために必要な情報は表形式で表現して、特定レベルの線量を被ばくした個人数、その時期などを明確に記述するようにすべきである。このようなマトリックス(表)は、「意思決定技法」と見ることができ、重要度の重み付けを表の中で各要素に与えることができる。これによって、人々に死の予想をさせ深刻に惑わせるような「集団線量の誤解」を避けることができると、ICRPは考えている。
世界的に発電用原子炉と再処理設備の拡大が予想されている中で、環境中にある長半減期放射性核種による被ばくが無制限に増大するのを制限する手段として、集団線量の概念は以前にも使用された。行為単位あたりの集団線量を制限すれば、制御されているすべての線源からの地球全体の1人当たり年間実効線量について将来の最大値を設定することができる。もし将来のある時点で原子力発電の大きな進展があれば、1人当たり線量が世界的に増大することを制限するために、何らかの手順の再導入を考慮する必要が出てくるかもしれない。
最適化の過程はもっと定性的な方法で表現することができるかもしれない。施設運営者は、日常業務を通じて防護の最適レベルを保証する責任があり、これは労動者、専門職などすべての関係者が防護の改善を目指して積極的に挑戦することによって達成することができる。最適化は、現実の状況下で最善を尽くしたかどうか絶えず問い直すという心がけの問題である。さらなる公式な認可については、現在は規制当局と施設運営者との協力で決定されているが、将来的には被ばく者の代表者を含む最も直接的に関与する全組織を、その状況下での最適防護レベルの決定・交渉に参画させることによって行うことが最も望ましいことであろう。このような社会的プロセスをICRPがどのように取り扱うかは今後決定される予定である。しかしながら、いずれにしろこのようなプロセスの結果は、規制当局によって現在検討中の線源への認可レベルとして反映されてくることになる。