興味を引いた手法・実験

◆α線マイクロビームを用いた実験
 マイクロビームの学会があるくらいで今ではもうそれほど目新しいものではないかも知れないが、Bystander effectの研究には特に有効。培養細胞の一つ一つに必要量の(例えば一個のα粒子の通過)照射を行える。顕微鏡下で一個の粒子の通過を受けた細胞を観察しつづけることができ、通過を受けていないその近傍の細胞の様子も観察できる。こうした現象の可視化は大切。

 似たような実験で、お互いに密着している培養細胞の一部を掻き取ると、その部分の両側の無傷の細胞内にちょうど染みわたるように様々な物質の発現などが見られる。蛍光顕微鏡下でその様子が観察している。

 

◆ヒトの様々な組織をマウス(改良scidマウス)に移植し、そのがん化を実験できる系を開発した。ヒト組織の放射線による発がんをマウスを用いて実験できるのは画期的な進歩。もちろん実際の発がんには抗酸化機能や免疫機能が発がん機構と同様に重要な因子として関与しているので個体の機能がマウスのものである以上、やはり限られたモデルではあるがそれでも大きな進歩だろう。

 

総合討論(6人の演者が現在の状況をまとめる)

Streffer

  • 適応応答(Adaptive response)は存在するだろう。しかし、照射条件に強く依存して、非常に狭い範囲(window)でのみ見られる。この現象を確立するのは難しい
  • 遺伝子の不安定性はヒトを含む生体(in vivo)においても起こりうる。そして続く世代に受け継がれてゆくだろう。 ウラン鉱坑夫の白血球には何十年も以前に受けた被爆の影響である染色体異常がかなりの高い確率で見られる
  • しきい値は存在するかもしれないが、これから検討されなければならない課題だ

 

Goodhead

  • 下図のような状況が考えられる

 

  • リスクを考えるときには放射線の通過する飛跡が重要。 一個の荷電粒子の通過がDNA変異を与えるのに十分な傷害をもたらすか。高LETと低LET放射線の違いを考慮しなければならない
  • 発がんリスクへと結びつくには集合的に起こる複数の傷害(clustered damage)が必要。 他には細胞間のシグナル伝達、遺伝子発現、Bystander effect、遺伝子の不安定性などが重要になる
  • 従来のDNA傷害と遺伝子の変異が発がんに結びつくという機構に加えて、遺伝子の不安定性・Bystander effectという新しい機構が見いだされた。本当に放射線はこれらの間接影響をもたらすか。もしそうなら、この機構が放射線発がんの主原因となるのか。 この機構が証明されれば放射線発がんの新しい基礎を提供し、これまでの考え方(LNT)が間違いであるということができる。 しかし、まだ解らないことが多すぎる

 

Matsudaira

しきい値に関する個人的な見解

   放射線従事者:100mSv/5年
   一般人:おそらく2mSv/年(放射線従事者の1/10)
     (自然放射線の4 mSv / 年に加えて)

 

Sasaki

適応応答

 原爆生存者、チェルノブイリ処理業者、メイヤック核施設従業員、セミパラティンスク核爆弾試験施設などの疫学データは予想される幹細胞の変異の発生とは反している。これは適応応答のためかもしれない。

 

その他の意見・コメント

  • Bystander effect なしでも一個の細胞に遺伝子の不安定性は誘導される
  • 酸素傷害は重要ではない
  • 発がんにおいては遺伝子の不安定性は重要な因子
  • Bystander effect は現在のところまだ実験的に証明されているにすぎないが、ヒトの発がんにおいても重要かもしれない
  • 疫学的なデータは分子レベルの研究の最初の糸口を与えるいみで重要
  • DDREFの値ををどのように扱うかを考える必要がある

    


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