|
||||
ホルミシス ◆バドガシュタインでは21の源泉があり、1日に500万リットルの湯(平均的ラドン含有量は40nCi/l=148万Bq/m3)を供給している。大気中には200mCi/日(74億Bq/日)のラドンが放出されており、室外で0.8-2.6pCi/l(30-100Bq/m3)、室内では5-11 pCi/l(185-400Bq/m3)のラドンレベルで住民の平均被爆量は6.7-14.5mSv/年である。10キロ北にあるホフガシュタインではバドガシュタインからパイプで湯を引いており、その住民の被爆量はバドガシュタインの約1/3である。(0.7-3.9pCi/l=26-144Bq/m3) これらの二つの地域の住民の1947-2000年の間のがん死亡率を比較した。結果はすべての死因におけるがん死亡が占める割合はバドガシュタインでホフガシュタインより低く、バドガシュタインでのがん発生件数は期待値より低かった。
◆脾臓の放射線適応応答における役割を検討するために脾臓摘出C57BL/6マウスを用いて実験を行った。脾臓摘出2週間後に0.45Gyの前照射を行った。さらに2週間後に6.75Gyの照射を行い、30日後の生存率と寿命の比較を行った。膵臓摘出マウスにおいて30日後の生存率はコントロールの43%に比べ、88%と顕著に高く、また平均寿命はコントロールの121日に比べ、182日と長くなった。脾臓摘出マウスにおいても放射線の前照射による明らかな適応応答が見られた。
◆低線量前照射による脾細胞のアポトーシスの抑制 X線0.45Gyの前照射の2週間後に3Gyの照射を行い、p53、Bax(遺伝子baxの作るタンパク質で、アポトーシス抑制タンパク質Bcl-2に結合してBcl-2の作用を阻害する)の発現およびアポトーシスを測定した。3Gy照射により脾臓でのp53、Baxタンパク量の増加とアポトーシスの誘導が見られたが、前照射を行うことによりp53、Baxの増加は顕著に抑制され同時にアポトーシスも抑制された。
◆P/QタイプCa2+チャンネル(細胞の原形質膜(細胞を取り囲んでいる細胞膜)上に存在し、細胞外のカルシウムイオンを細胞内に導入する通路(チャンネル)の一つ。様々なシグナルによってその開閉はコントロールされ、いくつかの種類がある)の電位に対する感度の低下したマウス(RMNマウス)を用いて放射線適応応答におけるCa2+チャンネルの関与を検討した。6.75GyのX線照射による寿命はコントロールで13日、RMNで8日となりコントロールよりも放射線感受性の向上がみられた。
◆腎臓の酸化的傷害をFe-NTA(ferric nitrilotriacetate。肝臓や腎臓に酸化的傷害を引き起こす試薬)錯体を用いて誘導し、低線量放射線の前照射の効果を検討した。Fe-NTAの腹腔内投与後3時間でGOT/GPTレベル(glutamic oxalacetic transaminaseおよび glutamic oxalacetic transaminaseの略で肝細胞内の酵素。肝障害のマーカー)は最大となり、48時間で最大の50%に低下した。Fe-NTAの投与3時間後に50cGyのγ線照射を行うとGOT/GPTレベルの低下は促進され、48時間でコントロールレベルにもどった。Fe-NTAの投与により過酸化脂質の増加と抗酸化物質の減少が見られた。γ線照射によって抗酸化物質のレベルは速やかに回復し、高いレベルを48時間保った。
◆低線量率ガンマ線照射の化学発がんに対する作用を検討した。3mGy/hr、1mGy/hr、0.3mGy/hrの線量率照射でICRマウス(マウスの系統)を35日飼育後、鼠径部に20-methylcholanthrene(MC)を注射した。216日後のがんの発生は3、1、0.3 mGy/hrにおいてそれぞれ非照射コントロールの89、76、94% であった。
◆低線量γ線照射による免疫機能の活性化を検討した。 7週齢のオスICRマウスに0.5Gy照射し、脾臓細胞のコンカナバリンA--誘導増殖とNK活性とグルタチオン量との関連を検討した。0.5Gy全身照射によりグルタチオンは増加し、4時間で最大となり12時間後にはコントロールレベルにもどった。2時間後および6時間後の増殖能は照射により増加した。NK活性も同様に増加した。これらの作用と細胞内グルタチオン量との関連を検討するために脾臓細胞にグルタチオンを直接添加したところ増殖能およびNK活性ともに顕著に増加した。グルタチオン合成の阻害剤BSOを同時に添加した場合これらの作用は抑制された。これらの結果は低線量γ線照射によるグルタチオンの増加が免疫機能の活性化に寄与していることを示している。 |