生物圏における自然の放射性核種の分布と放射線の使用がさまざまな線源から人間が受ける放射線量に反映される。過去数十年間、UNSCEARは環境中にある放射性核種や医療その他の放射線使用からの線量のデータを収集してきた。完全からは程遠いけれども、UNSCEARのデータ収集はおそらく最も総括的なもので、地上の人間が特定の線源から受ける平均年間線量の時間的な変化の推定を可能にするものである。国連総会への報告の中では、UNSCEARはレムあるいはシーベルトの単位で表示した推定結果をグラフの形で提供することは差し控えた。それらは図2に表示している。主としてUNSCEARの内部書類(医療および自然被ばくの一部)および公表されたかあるいは公表が承認されたデータ(UNSCEAR,
1988年;UNSCEAR, 2000c;UNSCEAR, 2000b;UNSCEAR, 2000c)に基づいている。
最も高い年間放射線量は自然の線源から受けるものである。現在UNSCEARの推定による人類の外部被ばくおよび内部被ばくの平均値は年当り2.4mSvである。自然放射線による線量は世界の特定の地域では大いに差がある。
UNSCEARによる東アジアの一部とヨーロッパの一部について、人口の39%の人が大地のガンマ線から1.5 mSv未満の線量を受けており、30%の人が1.5-1.99
mSv、18%の人が2.0-2.99 mSv、6.3%の人が3.0-3.99 mSv、ほんの0.4%の人が10 mSvを超えると推定している。しかしこの推定ではイラン、インド、ブラジルなどの自然放射線の高い地域は網羅していない。例えば、インドのケララ州では年間放射線量は76.4
mGy(生涯線量は5Gy)にも及ぶが、がんの事例増加または細胞遺伝学的異常とは関係づけられていない(Niar, 1999年)。ブラジルのアラクサ地域(居住者74,000人)では、平均線量率は2,800
nGy/hである。イランのラムサール市では、空中の吸収線量率は17,500 nGy/hにも達する(UNSCEAR, 2000b)。ブラジルの海岸地域のガラパリでは、空間の線量率は年間790mGyに相当する(UNSCEAR,
2000b)。ラムサールのある地域では、住民は年間線量が700 mGy(Mortanavi, 2000)の住居に住んでいる。これは1920年代からある耐容線量の値に近いものであり、生涯線量約50Gyに相当する。ラムサール地域では、人々は幾世代もの間このような高い放射線レベルに被ばくしてきたのである。細胞遺伝学的研究は、このような人々と対照集団との間で相違点があることを示してはいるが、がん、白血病の発生率上昇は観察されてはいない。*新しい計算では、ラムサールにおける最大の年間線量は260mGyに減少した(Ghiassi-nejad他,
2002)。
高自然放射線地域における明らかに無害な年間線量と比較して、人工線源から世界中の人間が受ける平均的な線量は重要なものではないように思われる。この説明は、チェルノブイリ事故の放射性降下物によって汚染された地域に住んでいる480万人についても有効である(UNSCEAR,
2000c)。当地の平均年間線量は約6mSvである。チェルノブイリ事故の放射性降下物による全世界の人々の平均線量の最高値0.045mSvは1986年に発生した。医療診断による世界の人々の被ばくは1950年代から急速に増加している。恐らく、発展途上国におけるエックス線技術の適用が着実に増えてきたためであろう。1980年代以降、この分野の被ばくは安定してきているようだ。1960年代初頭の最盛期においてさえ、核兵器実験による平均的な世界の被ばく線量(1963年には0.113
mSv)は医療被ばくよりもはるかに少ない。民間の原子力発電サイクルによる被ばくは、1955年以来着実に増えているが、2000年においても0.002
mSvという小さな値になっている。
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