(財)環境科学技術研究所は、青森県からの受託業務として平成3年から「低線量放射線生物影響実験」を計画、平成7年度から低線量率長期連続照射実験を開始し、平成14年度に「低線量放射線の長期被ばくが寿命に及ぼす影響」について、一連の研究成果が取りまとめられた。以下の情報は(財)環境科学技術研究所から提供を受けたものである。なお、死因等については現在解析が進められており、平成16年度以降に結果が公表されるとのことである。

 

 概要


1.実験方法
 総数4,000匹の特定の病原体をもたない(SPF)マウス*を用い、平成7年度から実験を開始した。生後8週齢の2,000匹のオス及び2,000匹のメスのマウスを4つのグループ(1つの非照射対照群及び3つの照射群)に分け、照射群については1日当たり20mGy、1mGy、0.05mGyの線量率のセシウム-137のガンマ線を約400日間連続照射(1日22時間)した。これらの線量率は日常生活での自然放射線被ばく(内部被ばくを除く)の約8,000倍、400倍及び20倍に相当し、集積線量はそれぞれ8,000mGy、400mGy及び20mGyとなる。これらのマウスを死亡するまでSPF条件の下で飼育し、各実験群の寿命を比較した(図1)。


図1 実験方法

2.本実験の特徴
 これまで低線量放射線の影響は、高線量域で得られた結果を低線量域まで引き伸ばす形で推定されている。本実験は、低線量域の放射線影響を直接調べるものである。

 すなわち、本実験の特徴は、
(1)

十分な実験計画と多数の実験動物を使用し、これまで世界中で行われた放射線影響研究の中でも最も低い線量・線量率の影響を直接実証した世界初の研究である。

(2)
厳しい管理条件下(SPF)で、放射線の影響だけに的を絞ったことも世界初の実験といえる。

3.実験結果
(1)

自然放射線の20倍程度の照射である0.05mGy/日照射群(集積線量20mGy)では、オス、メス共に寿命に影響は認められなかった(統計的な有意差はない)。

(2)

1mGy/日照射群(集積線量400mGy)では、オスで寿命に影響は認められなかったが、メスでは、約20日の寿命短縮が認められた。

(3)

20mGy/日照射群(集積線量8,000mGy)では、オス、メス共に100日以上の寿命短縮が認められた。

*SPFとは、Specific Pathogen Freeの略で、「特定の病原体が存在しない」という意味である(無菌動物ではない)。また、本実験で用いたマウスの系統は、B6C3F1マウスで、腫瘍の種類が比較的多く、放射線発がんや化学発がんの実験に多く用いられるマウスである。

 

 実験方法の詳細


1.材料と方法
(1)

マウス
 市販業者(株式会社ファブ)より6週齢のSPF B6C3F1マウスを1回にオス、メス各100匹(これに検疫用予備マウスが加算される)づつ20回に分け、総数として雌雄各2,000匹を購入した。これらのマウスは2週間の検疫終了後、8週齢で実験に供した。

(2)

飼育環境条件
 マウスには飼料としてガンマ線(30kGy)で照射滅菌した固型飼料(FR-2、株式会社船橋農場製)および飲料水として高塩素(8〜12ppm)添加純水(逆浸透膜精製水、オルガノ株式会社製)を自由に摂取させた。固型飼料は各ケージの蓋の飼料入れに適宜補充して与え、飲料水はポリサルフォン(PSF)給水瓶(200ml、日本クレア株式会社)に入れて週2回新鮮なものと交換した。ポリオレフィン(TPX)ケージ(170W×300D×130Hmm、トキワ科学器械株式会社)は床敷(クリーンチップ)(モミ材、日本クレア株式会社製)ごと週1回交換した。飼育器材は、全て洗浄・風乾の後高圧蒸気滅菌を施し、バリア区域内の所定の場所で保管した。
 マウス飼育中は、その飼育環境を基準値(実験動物施設基準研究会ガイドライン)どおり一定に保った。

(3)

照射条件
 照射は3照射室のそれぞれに設置してあるセシウム-137低線量率ガンマ線照射装置(ヨシザワLA株式会社製)で行った。各照射装置の線源の放射能は、74GBq(1994年11月15日現在)、3.7GBq(1994年9月29日現在)、0.185GBq(1994年12月11日現在)で、それぞれの日線量は約20mGy/22時間/日、1mGy/22時間/日、0.05mGy/22時間/日であった(Shiragai et al.、1998)。マウスに正午から翌日の午前10時まで1日22時間、約400日間連続照射を行い、集積線量がそれぞれ8,000mGy、400mGy、20mGyに達するまで照射した。照射は、平成7年度に線量測定によって決定した照射架台の各棚の所定の位置に、ケージを線源に対して横向きに配置して行った(10ケージ/架台)。なお、各照射架台の中で1週毎にケージの位置のローテーションを行い線量分布の均一性を保った。目的の集積線量に達したとき、マウスは非照射対照群を含む同一の入荷群を同一のSPF動物室に集めて終生飼育を行った。終生飼育中でも飼育条件の均一性を保つため、各飼育架台の中で1週毎に棚単位でケージの位置のローテーションを行った。

(4)

臨床観察
  マウスの健康状態と生死を毎日観察した。また、奇数回目の入荷群の中から、無作為に選んだ各実験群の20%のマウスについて、同一固体の体重を毎月1回死亡するまで測定した。さらに、全マウスの体重を照射開始時と終了時(非照射対照群は実験開始13ヶ月後)に測定した。

(5)
統計解析
 体重および平均寿命に関する統計解析は各実験群の分散を考慮し、Student's t-test またはWelch's t-test等により行った。


2.結果
 図2および3に示した。


図2 生存曲線(オス)


図3 生存曲線(メス)

3.備考
 本成果は、No Lengthening of Life Span in Mice Continuously Exposed to Gamma Rays at Very Low Dose Rates.の表題でRadiation Research vol.160 ,376-379(2003) で公表された。


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