1.実験方法
総数4,000匹の特定の病原体をもたない(SPF)マウス*を用い、平成7年度から実験を開始した。生後8週齢の2,000匹のオス及び2,000匹のメスのマウスを4つのグループ(1つの非照射対照群及び3つの照射群)に分け、照射群については1日当たり20mGy、1mGy、0.05mGyの線量率のセシウム-137のガンマ線を約400日間連続照射(1日22時間)した。これらの線量率は日常生活での自然放射線被ばく(内部被ばくを除く)の約8,000倍、400倍及び20倍に相当し、集積線量はそれぞれ8,000mGy、400mGy及び20mGyとなる。これらのマウスを死亡するまでSPF条件の下で飼育し、各実験群の寿命を比較した(図1)。
図1 実験方法
2.本実験の特徴
これまで低線量放射線の影響は、高線量域で得られた結果を低線量域まで引き伸ばす形で推定されている。本実験は、低線量域の放射線影響を直接調べるものである。
すなわち、本実験の特徴は、
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(1)
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十分な実験計画と多数の実験動物を使用し、これまで世界中で行われた放射線影響研究の中でも最も低い線量・線量率の影響を直接実証した世界初の研究である。
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(2)
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厳しい管理条件下(SPF)で、放射線の影響だけに的を絞ったことも世界初の実験といえる。 |
3.実験結果 |
(1)
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自然放射線の20倍程度の照射である0.05mGy/日照射群(集積線量20mGy)では、オス、メス共に寿命に影響は認められなかった(統計的な有意差はない)。
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(2)
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1mGy/日照射群(集積線量400mGy)では、オスで寿命に影響は認められなかったが、メスでは、約20日の寿命短縮が認められた。
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(3)
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20mGy/日照射群(集積線量8,000mGy)では、オス、メス共に100日以上の寿命短縮が認められた。
*SPFとは、Specific Pathogen Freeの略で、「特定の病原体が存在しない」という意味である(無菌動物ではない)。また、本実験で用いたマウスの系統は、B6C3F1マウスで、腫瘍の種類が比較的多く、放射線発がんや化学発がんの実験に多く用いられるマウスである。
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