4.今後の研究課題


1
) ラドン療法の医学的研究の必要性
 これまで、低線量放射線の生体に対する影響については、多くの場合、高線量域での生体に対する障害と同様に、生体に何らかの障害があると考えられてきた。しかし、近年、低線量域においては、生体は積極的に適応応答を示すことが明らかになってきた。この生体の恒常の維持に有益な作用に関する内外の研究状況としては、疾病・外傷への抵抗力の増加、坑酸化機能・免疫機能の亢進・発癌・老化の抑制、あるいは放射線に対する抵抗性の獲得などの現象が多数報告されている16)。しかし、これら現象の詳細な検証とその機構については十分に明らかにされていないのが現状である。この有益とされる作用については、今日、ラドン療法を含め長寿健康を目指した医療への応用など低線量放射線の有効利用の観点から国際的に注目されており、そのリスクも考慮しつつ最新の理論と分析技術を用いて現象の確認と機構の解明が急務となっている。

2) 我々の取り組み
 我々は本研究に関して既に次の成果を挙げ、これをとりまとめて総説17)として報告している。

(1)低線量の放射線(X線、γ線)照射やラドン暴露の実験により、小動物の諸臓器において坑酸化酵素であるSOD、glutathione peroxide(GPX)、カタラーゼなどが産生し、坑酸化機能の亢進を示唆すること。また、DNAとともに放射線感受性が高く、重要な恒常性維持機構を司る細胞膜において、低線量照射により膜輸送調節機能(ATPase活性など)や膜流動性の亢進、脂質過酸化反応の抑制など、代謝調節機能の亢進を示唆する細胞膜の構造と機能の変化が生じること。さらに,低線量照射によりconcanavalinA(ConA)応答などが亢進する、すなわち免疫機能の亢進を示唆すること。ラドン暴露により血液中のβエンドルフィンなどの鎮痛物質量が増加すること。

(2)事前の低線量照射によりアロキサンT型糖尿病などのいわゆる活性酸素病が抑制され、すなわち予防の可能性があること。また、事後の低線量照射によりV値鉄や四塩化炭素の投与による肝臓などの障害やNODマウスのT型糖尿病の発症を抑制する、すなわち活性酸素病の治療の可能性があること。

3) 今後の研究課題例
 これら研究成果と欧州におけるラドン療法の医学的研究に関する最近の動向を踏まえ、今後、例えば以下の研究課題を実施することが期待される。これにより、ラドン療法の有用性について理論的基盤を与えるとともに、広義に低線量放射線による活性酸素病(ひいては生活習慣病)の予防・治療の可能性の有無やその機構がより明確となる。また、長寿健康科学、先端老人医療の一翼を担うこととなる。

(1) 特に家ウサギを用い実施したラドン暴露研究18-20)の成果を踏まえ、本学医学部三朝分院のラドン高濃度熱気浴室での変形性関節症、あるいは気管支喘息の治療患者に関してラドン治療に伴う血液中の坑酸化機能、免疫機能、鎮痛作用などの変化特性を詳細に分析することで療法の機構の検討を行う。

(2) 温熱療法との関係について21)も(1)と同様にさらに検討する。

(3) 本邦の研究において二重盲検試験を用いた臨床医学的研究は未だされておらず、三朝分院などにおいて実施できるかの可能性を探る。

(4) さらに、ラドン温泉療法適応症であり、代表的な生活習慣病である高血圧症、U型糖尿病などのモデル小動物への低線量X線照射実験を行い、関連臓器・血液を対象に、疾患指標や坑酸化機能などの変化特性を分析する。

    

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