Phillippe Duport

 要 旨


 ラドン坑夫の放射線による肺がんリスク評価では普通は吸入ラドンの生成物のみが考慮されるが、肺がんリスクの増加は吸入したラドンの崩壊生成物(Rn222DP)のみではなく、その臓器が受ける総線量によるものである。Rn222DP以外の線源から肺に受ける線量は、総実効線量当量あるいは吸収線量や線量当量の25-75%を占めるかもしれないし、それはRn222DPからの線量と相関があり、またその大きさはウラン坑ごとに異なる。

 したがって、これらのことを見過ごすとRn222DPによるリスクを過大評価することになる。これらの補正を行うとRn222によるリスクは1/2-1/3に減少するだろうし、全体の線量-効果の関係を作用なしという帰無仮説に近いものにするだろう。そして現在のウラン坑や室内でのラドン被ばくにおける肺がんリスクのしきい値の可能性を高めるだろう。

 序 論


 地下で働く坑夫、11のコホートのRn222DPによる肺がんリスクに関する包括的な分析がLubinらによって公表された(1)。そのうち8つはオーストラリア、カナダ、チェコ、フランス、合衆国のものである(2-9)。Lubin はRn222の測定と砒素、ニッケル、シリカなどのRn222以外の坑内の物質影響も報告している。記録から他の鉱山での非放射性物質への曝露や、他のウラン鉱での仕事の経験年数に照らして補正したERR/WLM(月作業量当たりの過剰リスク)を報告しているが(10)、吸入ラドン以外の被ばくについては検討していない。BEIR(米国電離放射線の生物影響に関する委員会)IV報告書ではタバコや砒素の影響に触れているが、Rn222以外の線源からの被ばくについては考慮していない。

 歴史的にはウラン鉱での肺がんリスクは吸入されたRn222DPが原因であるとされ、他の線源によるものは無視できるとされた(11)。ウラン鉱では鉱石は砕かれて引きずられたりするので、Rn222DPだけに被ばくし他の線源には被ばくしないということは不可能だ。もしトリウムが鉱石中に含まれていたらトロンの崩壊生成物(Rn220DP)はかなりの量含まれることになる。

 1993年のUNSCEAR報告書(12)では、それぞれの線源からの被ばくはそれぞれの国や施設で計測されてはいないし、ウラン坑夫の疫学調査(2-9)ではRn222DP以外の線源から受ける線量についての検討がなされていないということが明らかにされた。例えばカナダのエリオット湖鉱山では、1981年以前には個人のγ線計測は行われなかったし(13)、Rn222DPや空気中の長寿命放射性の塵(LLRD)などは計測されなかった。Harleyら(14)が合衆国の2つのウラン鉱でのLLRDとRn222DPからの年間吸収線量は同等のレベルかも知れないと指摘した際にも、1993年のUNSCEAR報告書では合衆国でのウラン坑夫が受ける総実効線量当量は吸入Rn222DPによるものとしている。フランスのウラン鉱では例外的にすべての線源からの個人被ばく線量が計測されたが、疫学ではRn222DP以外の線源からの被ばくは調査されなかった。

 このように疫学における肺がんリスク評価では吸入Rn222DP以外の線源からの寄与は考慮されることがなかったのだが、どれくらいこの見過ごした線量の影響が大きいのかを検討することは重要なことである。

 Rn222DPが唯一の線源であるような場合には、坑内の水に溶存するRa226と長寿命のRn222DPが、水の蒸発によって超微粒子として吸入されるというような状況でない限りはこのような考慮は必要ない。そのような空気中の長寿命α線源は日常的に行われるWL測定では計測されない。というのはフィルターに付着したα線量としては、サンプル採取後の2-3分間ではほとんど測れないからだ。これについては検討されたことがないように思う。

 報告書のなかで何人かはリスク評価の誤差について議論したが(15)、見過ごされていたRn以外のガンマ線源やLLRDのことは可能性のある誤差のひとつとしては考慮されなかった。 さらに肺はRn222DPに被ばくした坑夫に発生するがんの唯一の臓器のようだ(表1)、(3、6-8、10、16-18)。肺がん以外ではフランスのウラン坑夫の肝がん(8)やチェコのウラン坑夫の口や口腔のがん(7)はおそらくその生活様式(アルコール摂取や喫煙または両方)によるものだろう。

 
Reference
SMR or RR for all cancers other than lung cancer SMR or RR for lung cancer
Uranium miners miners Tirmarche et al.(8) 0.80(no confidence interval) 1.84
Tomaekset al.(16) 1.11(0.98-1.24)a 5.08

Howe et al.(3)

  0-4WLM

  ≧5WLM

  Total

 

RR=0.72(no confidence interval)

RR=0.92(no confidence interval)

RR=0.82(no confidence interval)

 

1.22

3.37

2.30

Samet at al.(6) 1.1(0.8-1.4) 4.0
Muller et al.(17) 0.91(no confidence interval) 1.72

BEIR W

(pooled data)(10)

1.01(0.95-1.07)  
Fluorspar miners Morrison et al.(18) 1.13b(P>0.05) 5.25
表1 Rn222DPに被ばくした坑夫の肺以外の全てのがんに関する標準化死亡率(SMR)または相対リスク(RR)

 放射線によるがんリスクは理論的にはその臓器が受けた線量に直線的に比例する(19)。したがって、ウラン坑夫の肺がんリスクはRn222DPのみの線量ではなく肺が受けた総線量に比例する。しかし、疫学データと計測による推定との食い違いのためにICRPは計測による方法をやめ、Rn222DPによる被ばくと肺がんリスクを関連づけるために疫学的な考察に基づいた「conversion convention係数」を用いることを奨励するようになった(11)。しかし、リスクの計算に使う線量の定義が何であろうと、Rn222DP以外の線源を考慮しなければ、ERR/WLMは過大評価されることになるだろう。

 材料と方法


 異なる線源からの肺の被ばく線量推定に用いられた計測データにについて それぞれの線源からの総線量当量への寄与の割合を肺の吸収線量や線量当量と比較するために使われた計測データは、ウラン坑で個人がそれぞれの線源から被ばくする線量測定のために開発された個人α線線量計(PAD)で計算された(20)。PADはγ線計測用の熱ルミネセンス線量計でできており、坑夫のベルトの位置で持続的にRn222DP、Rn222DPとLLRDとγ線の時間積分値を計測する。それは1976年からフランスでウラン坑夫に用いられ、1982年にはフランスすべての坑夫に使われるようになった(21)

 エリオット湖鉱山ではこの同じPADがRn222DP、空気中の放射性物質の塵、Rn220DPの測定(22)に使われたが、ガンマ線は同じく熱ルミネセンス線量計で別個に測定された(13、22)。上記のRn222DP、Rn220DPとLLRDとγ線の計測は流量の変動やカウント数の統計的不確実さなどの誤差が伴う。また、計測はベルトの位置であり呼吸する位置ではない、という批判もあるが、Rn222DPを運ぶ微粒子が落ちてくる速度は10-7m/sであり、吸入される鉱石の塵では10-3m/s以下で(23)、1m/sもの速度で(24)空気が舞い上がっているような作業場では不均一さは問題にならないので当を得ていない。反対に普通鉱山での計測に使われるサンプリング計測では、通常の誤差や問題以外にも2-3分間という短時間の資料サンプリングと、1週間または1ヶ月に1回という少ない測定頻度のために測定値は実測値というよりは代表値でしかない。初期のPAD計測では瞬間のWL値は5倍もの変動がみられた(25)。 PiechowskiらはRn220の毎日のサンプリング計測によるRn222DPの個人被ばく線量は、持続的に計測された値とはかなり異なり、時には全く関連がないことを示した(26)

 Pradelらはフランスのウラン鉱ではサンプリング計測によって17種類の誤差のできることを示した(27)。そのうち4種類は個人被ばくの標準偏差が増加するような誤差で、13種類はRn222DP被ばくの見積もりを小さくしてしまうような誤差だ。

肺の線量当量へのそれぞれの線源の寄与、HT
ICRPの定義によれば19線量当量はRn222DP

で表される。

Ei は線源i (i =Rn222の崩壊生成物、Rn222DP、LLRD、γ線)からの実効線量当量。

HT,i は臓器Tの中の線源iからの肺への線量当量。

wT は組織の荷重係数(肺の場合はwT =0.12)。

E は総実効線量当量で

肺への総線量当量は

吸入Rn222からの肺の線量当量、HT 、 Rn222
 Rn222DPからの肺の線量当量は対象となる群の実効線量当量から計算された。エリオット湖でのデータが取られた頃はRn222DPの年間許容線量は4WLMで、これは50mSvに相当する。フランスのウラン鉱では限度は20mJでこれは50mSvまたは4.7WLMに相当する。これらの値はBirchallとJamesの報告にある15mSv/WLMに近い(28)。フランスやエリオット湖でのデータは標準化はされなかったが、したところでそれぞれの国でのmSv/WLM変換係数の違いということにしかならなかっただろう。

ICRPの実効線量当量のconversion convention係数はE =5.06mSv/WLM(11)または

mSv/WLMで表される。このconversion convention係数は計測ではなく傷害を基準にしてあり、すべての線源の寄与を含んでいる。

吸入Rn220からの肺の線量当量HT 、Rn220
 Rn220DPからの線量当量は吸入Rn222DPからの線量当量の1/3とされた(29)

HLLRDからの肺の線量当量HLLRD
 これは実効線量を肺の荷重係数(wT =0.12)で割ったもの

γ線からの肺の線量当量HT,γ
 個人γ線計測(カナダでは熱ルミネセンス線量計、フランスでは初期は写真式、1980年代になって熱ルミネセンス線量計になる)による肺の被ばくが計測された。

 異なるα線荷重係数を用いて計算されたウラン坑夫の肺における
 吸収線量と線量当量wR


肺の吸収線量におけるそれぞれのα線源の寄与、DT

で計算された。実効線量当量HT

 ICRPによって推奨された20という荷重係数とは異なる値も用いられたというのは文献では低線量・低線量率では20より小さくなると示唆していたからである。例えば、ヒトではトロトラスト(30)の2Gyというしきい値がAnderssonらによって示されたし、Evans(31)とRowlands(32、33)はダイアル塗装工での内部蓄積のRa226の"現実的な"しきい値は10Gyとした。

 動物ではSandersはラットで吸入されたPuO2239(34)のしきい値を見いだし、MonchauxらはRn222の場合高線量率(10WLの濃度で25WLM)ではラットでの肺がんリスクを増加させるが、低線量率(2WL)では増加はせず、減少させるかも知れないことを示した(35)

 BirchallとJames28はin vitroでRn222に被ばくした細胞の変異率からX線に比較してα線のRBEを12とし、wR は異なる組織の異なるがんではこの値は違ってくると示唆した。細胞の生存率からはRBEは2.2-3.8の間の値となりICRPの値の1/7である(36、37)

 これらのデータは内部蓄積α線源による発がんの率は低線量・低線量率では減少することを示しているように思える。組織荷重係数wT は全体の放射線傷害におけるそれぞれの組織の割合から計算されるので(19)、低線量α線で値が低下することは放射線荷重係数wR で表される。したがってHT 値は従来の20に加えて、3、7というwR を使って計算された。肺の吸収線量・線量当量は式(1)、(2)、(3)を用いて計算された。

 エリオット湖鉱山でのそれぞれの線源の実効線量当量と線量当量への寄与


 エリオット湖ではPADは約10%の坑夫に適用された(22)。それぞれの線源からの年間線量として37件、四半期線量として148件のデータが集められた。これらからRn222DPはこれらの坑夫の総実効線量当量の55%を占め、Rn222DP、LLRD、γ線はそれぞれ10、10、26%を占めることが判った。Rn222DPは肺の吸収線量の40%、wR 値によるが線量当量の55-70%を占めることも明らかになった(表2)。

 
Ratio Rn D.P. dose/Total dose
Effective dose
Absorbed dose
Equivalent dose
wR=3
wR=7
wR=12
wR=20
ERn222
(mSv)
ERn220
(mSv)
ELLRD
(mSv)
Eg
(mSv)
Etot
(mSv)
 
 
 
 
 
 
13.2
2.4
2.40
6.20
24.20
0.55
0.40
0.57
0.66
0.69
0.70
表2 エリオット湖ウラン鉱山でのそれぞれの線源からの実効線量当量とRn222DPの実効線量当量、吸収線量そして線量当量に占める割合
 エリオット湖鉱山での線源間の線量の相関

それぞれの線源からの線量の相関は以下のようである。(R:相関係数)
  γ線/ Rn222DP R=0.275
  吸入LLRD/Rn222DP R=0.460
  Rn220由来核種/Rn222DP R=0.953


 


より最近の報告では1983年のエリオット湖の鉱山の一つでのγ線/Rn222由来核種の相関係数は0.58とされている(38)

 強制排気が行われる前のラドンと鉱石塵による被ばく
 
 それまでは掘削機などの機械類から放出される圧縮空気を吸入していた。そのような圧縮空気による坑内の空気の攪拌は、全く排気がない場合よりRn222DPレベルをいくらか低くしていたようだがLLRDを除去するような効果はなかった(39)。強制排気の前はRn222DPは約2倍、LLRDは4.5-7.5倍であった。したがってRn222DPに対してLLRDの実効線量当量における寄与は2-3倍高かっただろう。エリオット湖鉱山では鉱石の分布は均一で、γ線の線量分布も坑内でかなり均一だった。強制換気のもとではRn22DP、Rn220 DP、LLRD、γ線が総実効線量当量に占める割合はそれぞれ54、10,10,25%だった(表2)。強制排気前は45、10,20,25%だった。
フランスの鉱山での線源の実効線量当量と線量当量への寄与

 表3のようにRn222DPの寄与は鉱山や荷重係数wT によるが、実効線量当量の34-67%、肺の吸収線量の25-57%、肺の線量当量の36-74%位だった。これらの場合にはRn222DP被ばくからは実際の被ばく線量は見積もることができない。

 
Ratio Rn D.P. dose/Total dose
Effective
dose
Absorbed
dose
Equivalent
dose
wR=3
wR=7
wR=12
wR=20
Mine#
ERn222
(mSv)
ELLRD
(mSv)
Eg
(mSv)
Etot
mSv)
 
 
 
 
 
 
1
13.75
7.80
3.14
24.69
0.56
0.47
0.57
0.61
0.62
0.63
2
15.00
11.41
3.76
30.17
0.50
0.42
0.51
0.54
0.55
0.56
3
13.00
6.20
2.47
21.67
0.60
0.52
0.61
0.65
0.66
0.67
4
12.75
6.88
3.26
22.89
0.56
0.46
0.57
0.61
0.63
0.64
5
17.75
11.26
4.45
33.46
0.53
0.45
0.54
0.58
0.59
0.60
6
15.00
9.15
3.95
28.10
0.53
0.45
0.55
0.59
0.60
0.61
7
12.75
8.29
3.54
24.58
0.52
0.43
0.53
0.57
0.59
0.59
8
23.25
7.62
4.02
34.89
0.67
0.57
0.68
0.72
0.73
0.74
9
14.25
8.41
2.17
24.83
0.57
0.51
0.58
0.61
0.62
0.62
10
7.00
8.03
5.62
20.65
0.34
0.25
0.36
0.41
0.43
0.45

Maximum neglected dose

(1-(Rn222 dose/total dose))

0.66
0.75
0.64
0.59
0.57
0.55
表3 フランスのウラン鉱山でのそれぞれの線源からの実効線量当量とRn222DPの実効線量当量、吸収線量そして線量当量に占める割合
フランス鉱山でのそれぞれの線源からの線量の相関
 
 フランスの3つのウラン採掘地域(40)での約950人の坑夫の1年(1988年)にわたる個人被ばくデータの分析からはRn222 DPとγ線、吸入ウラン鉱石塵(例として図1。Rn222 DP/LLRD、Rn222 DP/γ線に関しても同様の相関が得られる)によい相関が得られている。年間Rn222 DP線量と他の線源からの線量の相関の傾きと相関係数を表4に示した。地域3が地域1、2より約10倍高い傾きを示している。 年間個人γ線線量とRn222 DPの分散プロットからも(図2) Rn222 DPに比して他の線源からの線量は地域によって異なること、そして年間個人線量は地域によって分布が非常に異なる、ことを示している。

図1 フランスウラン採掘地#3での個人年間γ線量とRn222DP線量の相関の例

  
1
2
3
Mining district
q
R
q
R
q
R
Gamma doses vs Rn222DP
0.09
0.57
0.14
0.57
1.24
0.76
LLRD vs Rn222DP
0.22
0.58
0.39
0.59
2.24
0.78
表4 フランスの3ウラン採掘地でのRn222DP実効線量当量とγ線およびLLRD由来の線量の間の相関(回帰直線の傾きqと相関係数R)

図2 フランス3ウラン採掘地での個人年間γ線とRn222DP線量の分散プロット
 ウラン鉱山での肺線量計測の不確実さ
 
 ラドン被ばくと肺がんリスクの相関を議論するに際して、ラドン計測に関わる誤差の原因と大きさを簡単に見てみよう。線量当量はたった1つの計測値、つまり空気中のポテンシャルαエネルギー(WL )と測定の状況に関する一連の推定パラメーターによって決められる。WL計測の不確実さは20%に達し、一方推定パラメーターに存在する不確実さの複合によって全体的な不確実さは何倍にもなるかも知れない(28、29)。これは計測よらずにConversion convention係数を用いた方がいいというICRPの根拠となる(11)
 考 察


 ウラン坑夫がRn222DPのみに被ばくすることは困難だ。また鉱石や採掘技術、防護技術は発展していくものだ。初期は乾燥採掘が行われ、空気中の濃度は高くなった。強制排気は1950年代から盛んに行われた。ウラン採掘の初期の頃にはウランを大量に含んだピッチブレンドは手で処理され、高いγ線被ばくにつながった。

 エリオット湖鉱山では、強制排気後にはPADデータではRn222DPはwR 値により総実効線量の55%、肺吸収線量の40%、肺線量当量の57-70%を占め、見過ごされた線源からの線量は30-60%にも達する。フランスの10のウラン鉱山でのRn222DPの寄与はそれぞれ34-67%、25-57%、36-74%となった。したがってPADで計測された期間ラドンリスクにおいて見過ごされた線量はそれぞれの総線量の33-75%にも達する。

 不確実さは見過ごされた線量に由来する。この不確実さは個人計測のデータがあって初めて検討できる。これは少ない人数の群では不可能で、実測の肺被ばく線量は何倍にも変動し、信頼性のある推測は不可能だ。 さらにすべてではなくとも多くの坑夫は、発がん物質である珪素(41)の塵にさらされており問題を難しくしている。

 吸入した珪素とα線源の相乗的な作用については情報がないが、フランスの鉄鉱山(42)での肺がん相対リスクが5で、チェコの鉄鉱山(43)でのそれが15であることから、珪素の塵はウラン鉱山での空気中のα線源より大きな肺がんリスクがあることがわかる(表1)。

見過ごされた線量のERR/WLM計算値への影響

 
 (a)ERR/WLMは主に最も高線の被ばく群の肺がんの発生が大きく左右する。(b)そのような群は大抵強制排気が行われなかった頃の坑夫群で、Rn222DP以外の寄与がその後より大きい。したがって見過ごされた線量は初期の坑夫において大きいものと考えられる。

 肺への総線量のうちのいくらかを見過ごすことはそれに応じた影響をERR/WLMに与える。同時にそれらの見過ごされた線量が施設によって異なることや個人の吸入Rn222 DPによる蓄積線量が確かでないことなどが生涯総線量に大きな誤差、ひいては線量群の分類の間違いを生じ、線量-効果関係は放射線の影響なしという帰無仮説-線量計測の幾何学標準偏差が大きくなるにつれて、影響が小さくなる傾向がある(44)-に近いものになっていく。

 残念ながら、これらの誤差は信頼性のある個人計測が行われた群においてのみ定量できる。つまり、1982年に仕事を始めたフランスのウラン坑夫に限られる。異なる線源からの線量は関連しているので、放射線による肺がん発生はそれぞれの寄与の割合に依存する。したがってラドンのERR/WLMは以下のk によって補正されなければならない。

 ここで肺線量は吸収線量DT か線量当量HT である。フランスのウラン坑夫の場合k は0.26-0.75、エリオット湖では0.55-0.45である。文献におけるRn222DPのリスクは2-3倍高く見積もられているが、上記は見過ごされた線量に基づく線量群の分類の間違いを考慮していないので小さく見積もられている。もし見過ごされた線量だけがリスク係数に考慮されると、エリオット湖とフランスの坑夫についてのLubinらが見積もったERR/WLMの値、それぞれ0.89%/WLMと0.36%/WLM、は0.45%と0.18%になるだろう。

 ウラン鉱山の低レベルラドン被ばくでのリスクが非常に低いか、もしくはリスクがないことは低線量のα線源が動物(34、35、45)やヒト(30-33、46)にがんを起こさないということに対応している。Saccomnnon(47)やRoscoe(48)は喫煙しないウラン坑夫の中で肺がんができた者の最小蓄積線量は約465WLMである。これは喫煙者のそれよりはるかに高いレベルだ。

 結 論

 

  1. 見過ごされた線量のリスク評価をもっと厳密に行うには呼吸器系での線量計算が必要で、肺に被ばくをもたらす放射性エアゾルについての知識が必要となる。大抵の坑夫たちにおいてそのような情報は今のところないのだが、ここで行った推算はそのおおよそのレベルを与えるだろう。ウラン鉱での調査はRn222DP以外の線源の寄与は無視できないこと、場合によってはRn222DPより大きな線量となることが示された。そのような場合にはRn222DPの線量で本当の被ばく線量を推定することはできない。
  1. 誤差の原因としてERR/WLM値の過大評価および線量群の分類の間違いがある。これらを補正すると、これまでの文献のERR/WLM値はかなり小さくなるだろうし、今日のウラン鉱山や家屋での低レベルラドン被ばくのしきい値は高くなるだろう。
  1. それぞれの線源からの寄与は施設によって異なる。したがってことなるウラン坑夫群の間での比較は難しい。
  1. ウラン鉱山での放射線環境は非常に異なるが、様々な不確定さの補正を行うことができれば現在知られているERR/WLM値は1/2-1/3に減少するだろうということも正当に評価できるようになる。
  1. ここでのもうひとつの結論は、ウラン坑夫のラドンのリスクを室内ラドンのリスクに適用する場合には、ウラン鉱山での調査では見過ごされていたような(他の線源からの)線量の作用を考慮すべきである。
 References

(1)
LubinJ.H., Boice, J.D.Jr., Edling,C., Hornung, R.W., Howe, G., Kunz, E., Kusiak, R.A., Morrisson, H.I., Radford, E.P., Samet, J.M., Tirmarche, M., Woodward, A., Xiang, Y.S., Pierce, D.A.Radon and lung cancer risk: A Joint anaysis of 11 underground miners studies. U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service, National Institutes of Health, NIH Publication No.94-3644(1994).
(2)
Howe G.R., Nair R.C., Newcombe H.B., Miller A.B., Abbatt J.D.Lung cancer ortality(1950-80) in relation to radon daughter exposure in a cohort of workers at the Eldorado Beaverlodge uranium mine. J Natl Cancer Inst. 77:357-362 (1986).
(3)
Howe G.R., Nair R.C., Newcombe H.B., Miller A.B., Burch J.D., Abbatt J.D. Lung cancer mortality(1950-80) in relation to radon daughter exposure in a cohort of workers at the Eldorado Port Radium uranium mine: Possible modification of risk by exposure rate. J Natl Cancer Inst. 79:1255-1260(1987).
(4)
Kusiak R.A., Ritche A.C., Muller J., Springer J. Mortality for lung cancer in Ontario uranium miners. Br J. Ind Med 50:920-928(1993).
(5)
Lundin F.D., Wagonner J.K., Archer V.E. Radon daughter exposure and respiratory cancer, quantitative and temporal aspects. National Institute for Occupational Safety-Health and National Institute of Environmental Health Sciences.Joint Monogragh No.1. Washington, D.C.: US Department of Health, Education and Welfare, Public Health Service(1971).
(6)
Samet J.M., Pathak D.R., Morgan M.V., Key C.R., Valdivia A.A. Lung cancer mortality and exposure to Rn progeny in a cohort of New Mexico underground U miners. Health Phys. 61:145-152(1991).
(7)
Tomasek L. and Placek V. Radon exposure and lung cancer risk: Czech cohort study. Radiat Res. 152:559-563(1999).
(8)
Tirmarche M., Raphalen A., Allin F., Chameaud J., Bredon P. Mortality of a cohort of French uranium miners exposed to relatively low radon concentrations. Br J Cancer 67:1090-1097(1993).
(9)
Woodward A., Roder D., McMichael A.J., Crouch P., Mylvaganam A. Radon daughter exposures at the Radium Hill uranium mines and lung cancer rates among former workers, 1952-87. Cancer Causes Control 2:213-220(1989).
(10)
BEIR VI. Health Effects of Exposure to Radon.National Research Council (USA) National Academy Press (1998)
(11)
International Commission on Radiological Protection. Protection Against Radon-222 at Home and at Work. ICRP Publication 65. Annals of the ICRP Vol.23 No.2(1994).
(12)
United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation.Sources and Effects of Ionizing Radiation,Annex D: Occupational radiation exposures, Table 3.(1993).
(13)
Bradley R.P., Grogan D., Kelemen L. The development, introduction and early experience of a large scale external gamma monitoring program in Canadian uramium menes. Proc. of the International Conference on Occupational Radiation safety in Mining, Stocker, H. ed., Canadian Nuclear Association, publ. pp. 93-97(1984).
(14)
Harley N.H. and Fisenne I.M. Alpha dose from long lived emitters in underground uranium mines. Proc. of the International Conference on Occupational Radiation Safety in Mining, Stocker, H. ed., Canadian Nuclear Association, publ., pp. 518-522(1984).
(15)
Hornung R.W. and Meinhardt T.J. Quantitative risk assessment of lung cancer in U.S. uranium miners. Health Phys. 52(4):417-430(1987).
(16)
Tomasek L., Darby S., Swerdlow A., Placek V., Kunz E. Radon exposure and cancers other than lung cancer among uranium miners in West Bohemia. The Lancet 341:919-923(1993).
(17)
Muller J., Wheeller W.C., Gentleman J.F., Suranyi G., Kusiak R. Study of mortality of Ontario miners. Proc. of the International Conference on Occupational Radiation Safety in Minig, Stocker, H. ed., Canadian Nuclear Association, publ. pp. 335-343(1984).
(18)
Morrison H., Semenciw R., Mao Y., Wigle D. The mortality experience of a group of Newfoundland fluorspar miners exposed to Rn progeny. Publication INFO-0280. Atomic Energy Control Board, Canada(1988).
(19)
International Commission on Radiological Protection. 1990 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection, ICRP Publication 60. Annals of the ICRP Vol.61(1991).
(20)
Duport P., Madelaine G., Zeetwoog P., Pineau J-F. Enregistrement des rayonnements alpha dans le dosimetre individuel et le dosimetre de site du Commissariat a l'Energie Atomique. Proc. of. the 10th International Conference on Solid State Nuclear Detectors, Francois H., Kurtz N., Massue J-P., Monin M., Schmitt R., Durrani S.A. eds., Pergamon Press, pp. 609-614(1979).
(21)
Bernhard S., Pineau J-F., Rannou A., Zettwoog P. 1983: One year of individual dosimetry in French mines.Proc.of the International Conference on Occupational Radiation Safety in Mining, Stocker, H. ed., Canadian Nuclear Association, publ. pp. 526-539(1984)
(22)
Duport, P., Stocker, H., Dalkowski, E. Implications of dose distribution on monitoring requirements in U mines and mills. Health Phys. 55(2):407-414(1988).
(23)
Bricard J. Physique des aerosols. Rapport CEA-R-4931(1). Commissariat a l'energie atomique−Service de documentation, Saclay, France(1977).
(24)
Loison R. Lois de la ventilation In: Aerage, Revue de l'industrie minerale, Document S.I.M. no.1 Paris(1962).
(25)
Chapuis A-M., Duport., P., Zettwoog P. Individual dosimeter for radon and thoron daughters. Proc. of the Specialist Meeting on Personal Dosimetry and Area Monitoring Suitable for Radon and Thoron Daughter Products. OECD-Nuclear Energy Agency, Paris(1978).
(26)
Piechowski J.W., Le Gac J., Brenot J., Nenot J.C., Zettwoog P. Exposure to short-lived radon daughters: Comparison of indibvidual and ambient monitoring in a French uranium mine. Proc. of the International Conference on Occupational Radiation Hazards in Mining:Control, Measurement, and Medical Aspects, Gomez M.ed., Society of Mining Engineers of the American Institute of Mining, Metallurgical, and Petroleum Engineers, Inc. New York, NY, publ. pp. 539-548(1981).
(27)
Pradel J., Francois Y., Zettwoog P. Problemes pratiques rencontres dans la determination des doses α inhalees par le personnel des mines d'uranium Proc. of the NEA Specialist Meeting, Elliot Lake, Canada, OECD-NEA, pp. 149-154(1976).
(28)
Birchall, A. and James, A.C. Uncertainty in analysis of the effective dose per unit exposure from 222Rn D.P. and implications for ICRP risk-weighting factors. Radiat Prot Dosim. 53(1-4): 133-140(1994).
(29)
Organization for Economic Co-operation and Development-Nuclear Energy Agency. Dosimetry aspects of exposure to radon and thoron daughter products. OECD-NEA, Paris(1983).
(30)
Andersson, M. and Strom, H.H. Cancer incidence among Danish Thorotrast patients. J Natl Cancer Inst. 4:1318-1325(1992).
(31)
Evans R.D. The effects of skelatally deposited Alpha-ray emitters in man. Brit J Radiol. 39:881-895(1967).
(32)
Rowlands, R.E., Stehney, A.F., Lucas (Jr) H.F. Dose response relationships for female Radium dial painters. Radiat. Res. 76:368-383(1978).
(33)
Rowlands R.E., Stheney A.F., Lucas H.F. Dose-response realationships for radium-induced bone sarcomas. Health Phys. 44(S1):15-31(1983).
(34)
Sanders C.L., McDonald, K.E., Mahafey, J.A. Lung tumor response to inhaled Pu and its implications for radiation protection. Health Phys. 55(2):455(1988).
(35)
Monchaux G., Morlier J-P., Altmeyer S., Debroche M., Morin M. Influence of exosure rate on lung cancer induction in rats exposed to 222Rn D.P. Radiat Res. 152:S137-S140(1999).
(36)
Jostes, R.F., Fleck, E.W., Morgan, T.L., Steigler, G.L., Cross, F.T. Southern blot and polymerase chain reaction exon analyses of HPRT-mutations induced by 222Rn D.P.. Radiat Res. 137:371-379(1994)
(37)
Schwartz, J.L., Rotmensch, J., Atcher, R.W., Jostes, R.F., Cross, F.T., Hui, T.E., Carpenter, S., Evans, H.H., Mencl, J., Bakale, G., Rao, P.S. Interlaboratory comparison of different alpha-particle and radon sources: Cell survival and relative biological effectiveness. Health Phys. 62:458-461(1992).
(38)
Sont, W. Personnel Communication(2001).
(39)
DSMA Atcon Ltd. Elliot Lake Study: Factors affecting the uranium mine working environment prior to introduction of current ventilation practices. Publication INFO 0154, Atomic Energy Control Board(Canada), (1985).
(40)
Bernhard S. ALGADE France, Personal communication(2001).
(41)
International Agency for Research on Cancer(IARC). Silica, Some Silicates, Coat Dust and para-Aramid Fibrils. Vol.68(1997).
(42)
Anthoine, D., Lamy, P., De Ren G., Braun, P., Cervoni, P., Petiet, G., Schwartz, P., Zuck, P. and Lamaze, R. Le cancer bronchique des mineurs de fer de Lorraine. Arch Mal Prof. 40(2):48-21, (1979).
(43)
Isco, J. and Szollosova, M. Incidence of lung cancer in iron ore miners. Proceedings of the International Conference on Low Dose Irradiation and Biological Defense Mechanisms, Kyoto, Japan, 103-106, (1992).
(44)
Howe, G. and Armstrong B. The effects of measurement error in doses on risks of radiation-induced cancer. AECB Research Report, Atomic Energy Control Board(Canada)(1994).
(45)
White, R.G., Raabe, O.G., Culbertson, M.R., Parks, N.S., Samuels, S.J., Rosenblatt, L.S. Bone sarcoma characteristics and distribution in Beagles injected with radium 226. Radiat. Res. 137:361(1994).
(46)
Conrady J., Martin, K., Poffijn, A., Tirmarche, M., Lembecke, J., Thai, D.M., Martin, H.High residential radon health effects in Saxony(Schneeberg study). Report Contract No. FI4P-CT95-0027, European Community(1999).
(47)
Saccomanno G. Personal communication(1993).
(48)
Roscoe R.J., Steenland K., Halperin W.E. Lung cancer mortality among nonsmoking uranium miners exposed to radon daughters. J Am Med Ass. 262(5):629-633(1989).

ホームページに関するご意見・ご感想をこちらまでお寄せ下さい。
メールアドレス:rah@iips.co.jp