10月30日に案内しました、米国ワシントンのヒルトンホテルで、11月15日に開催された米国放射線・科学・健康協会(Radiation, Science, & Health, Inc.、以下RSH)主催のシンポジウム"A Symposium: On the beneficial health effects of low-dose radiation; And on current and potential medical therapy applications"についての経緯と概要を以下に紹介します。
このため、米国エネルギー省(Department of Energy、以下DOE)に、1999年度から10年間にわたり高額の予算をつけて、細胞レベルにおける低線量放射線の生物効果を調べる研究を立ち上げると同時に、1999年の夏に、会計検査院(General Accounting Office、以下GAO)に、現在の放射線防護基準が拠り所とする科学的な根拠(データ)についての調査を指示した。 GAOは、2000年6月にDomenici上院議員に報告書を提出し、その中で、放射線はゼロに近いレベルでも有害とする仮説の当否を論ずるに足るデータが未だ十分でないと述べると共に、放射線防護の実務において問題なのは、原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Committee、以下NRC)と環境庁(Environment Protection Agency、以下EPA)が、それぞれ管理基準を異にしていることにあるとした。また、それぞれの基準で将来の高レベル廃棄物処分に係わる費用を算定し、どの程度、予算に違いが生じるか対比して示した。 このGAOレポートを見て、Domenici上院議員は、低線量放射線の有益な効果(ホルミシス効果)を含め、放射線の生物影響に関わる問題提起がなされておらず、規制に係わる組織のあり方に焦点がすり替えられていると不満を持った。 今回のシンポジウムは、Domenici上院議員の秘書からRSHへの依頼によって開催されたものであり、「行政関連セミナー」との色彩が強く、DOE、NRC、EPAのスタッフ、医学者、マスコミおよびRSH関係者など約60名の参加を得て、既に報告されている放射線ホルミシス研究の成果((財)電力中央研究所が進めてきたプロジェクト研究の成果が多く引用されていた)を中心に紹介し、関係者の理解促進をはかる場であった。
<その他>
なお、低線量放射線研究センターの設置については、RSHからDomenici上院議員にも報告されたとのこと。また、RSHでは2001年の秋に、オーストリアにおいて低線量放射線の国際会議(ラドン効果を含む)を計画するとのこと。
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RSHは、科学的データに基づき、現在の放射線パラダイム「直線仮説」が誤りであることを示し、放射線の取り扱いに係わる政策の見直しを提言することを主要な目的として1996年に設立された国際的な非営利の研究・教育団体である。James Muckerheideを会長とし、Rosalyn Yalow(ノーベル医学・生理学賞受賞者)を名誉理事に頂く理事会は、医学、生物、工学の専門家で構成されている。理事長は、Myron Pollycove(米国原子力規制委員会医学顧問、カリフォルニア大学名誉教授)であり、日本からは近藤宗平大阪大学名誉教授及び服部禎男(財)電力中央研究所特別顧問が理事として参画している。 活動の計画は、Muckerheide会長が基本的な方向を示し、これに構成メンバーが意見を述べて具体化するという方法が採用されているようだが、その討議は非常に激しいものがあり、全員の意見が一致するまでには多くの時間と労力を費やしていることが伺えた。今回のメンバーが集まった議論においても、モンタナ州にあるウラン鉱山跡のラドンを利用して医療への適用をはかる計画が審議されたが、ラドン効果の科学的データは既に十分とする人と、医療の資格ある人が取得したデータが少なく不十分とする人とに分かれ、1日の議論を終えても結論が出なかったほどである。 しかし、基本方向が決まったあとの行動力には優れた物があり、この裏には構成メンバー一人、一人の幅広い人脈に負うところが大きいとの印象を受けた。今回の会議もまさにこの人脈の広さによるものと推測されるが、国の関係者を多く集めて、低線量と高線量の放射線には大きな違いがあることをレクチャーする試みは実効的であり、特にEPAの今後の対応が注目される。日本において、RSHのような政策部門にまで提言できる組織を作ることには困難があり、低線量研究の情報を世界に発信する上で、RSHと連携をとって進めることが効率的との印象を受けた。 |
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<補足> RSH の活動について:
文責:石田健二 (財)電力中央研究所低線量放射線研究センター 副所長
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