週刊プレイボーイ誌の8月21、28日合併号で、「原発周辺で赤ちゃんが死んでいく」と題して、ルポライターの明石昇二郎氏のレポートが掲載されています。その中で、
ことを指摘し、その原因として、原発から放出されている「放射性よう素やトリチウム」および、周産期死亡率の上昇が1997年から始まっていることを理由に、この頃から顕著になった原発の「定期検査期間の短縮」が原因との仮説を展開しています。大変ショッキングな記事なので、事実関係を調べてみることにしました。
周産期死亡率は急上昇しているでしょうか? 国の「人口動態統計」をもとに、全国の原子力発電所から半径10km圏内の市町村の周産期死亡関するデータを集計すると、表1に示すようになります。また、全国の周産期死亡に関するデータは、表2に示すとおりです。
表1 全国の原子力発電所から半径10 km圏内の市町村の周産期死亡
表2 全国の周産期死亡
記事は、全国平均より「異常に(?)」低い1996年からでなく、周産期死亡率が全国平均とほぼ等しい「1997年からの上昇」を強調しています。しかしながら、このように年によって、発電所から半径10 km圏内の周産期死亡率がかなり変動するのは、周産期死亡が毎年100位の数であるため、統計的に20%程度のバラツキは珍しくないからです。 したがって、3ヶ年という短期間のデータだけを取り出して「死亡率が急上昇」というのは早計だといえます。なお、記事に掲載されているグラフでは1999年の周産期死亡率は、7.2位の値になっていますが、これは半径10 km圏内に含める市町村の取り方の違いによるものと思われます。
放射線被ばくと周産期死亡率 母親が妊娠中に胎児が放射線を受けた場合の影響は、広島・長崎での原爆放射線についての調査結果があります。それによりますと、原爆放射線を受けた胎児には外見的にわかる発生異常(奇形)の増加は見られず、精神発達遅滞症(知恵遅れ)も100ミリシーベルト未満では見られないことが分かっています。 では、両親が被ばくしたことによる周産期死亡率への遺伝的影響はどうでしょうか?広島・長崎で、原爆放射線を受けていない人の場合(対照群)と受けた人の場合(被ばく群)で、周産期異常に差があるかどうかという調査結果があります。 死産、奇形、新生児死亡を含めた周産期異常は、(被ばく群)5.00%(503/10,069)、(対照群)4,99%(2,257/45,234)となっており、頻度に差がないという結果でした(M. Otake 他、Radiation Research, 122, 1-11, 1990)。親の平均被ばく量は、320ミリシーベルトと評価されていることから、放射線被ばくで周産期異常の頻度に有意な差が出るのはこれ以上の被ばく量が必要ということになるでしょう。
原子力発電所による一般公衆の放射線被ばく わが国の原子力発電所の周辺で、一般公衆が周産期死亡を増加させるような大量の放射線被ばくを受けた可能性があるでしょうか。 原子力発電所から放射性よう素及びトリチウムが放出されていることは、「原子力発電所運転管理年報」(経済産業省原子力安全・保安院編、(社)火力原子力発電技術協会発行)に放出量が記載されていることから事実ですが、これらの放射性物質によって一般公衆が受ける被ばく線量は、 線量限度の年間1mSvを下回ることはもちろん、原子力安全委員会が定めた線量目標値指針の年間0.05ミリシーベルトよりもさらに小さいと評価されています。 したがって、原子力発電所から放出される放射性物質による被ばくは、周産期異常の頻度に影響を与えるような放射線レベルと比較すると、途方もなく小さいといえます。
まとめ 週刊プレイボーイ誌の記事で、全国各地の原子力発電所周辺で現在、「周産期死亡率」が、急上昇し続けていると指摘されていますが、発電所から半径10 km圏内の年間の周産期死亡数が少ないことによる統計的なバラツキを見ている可能性が大きいと思います。 また、単なる統計的なバラツキによるものではなく、周産期死亡率が1999年以降も上昇を続けるとしても、原子力発電所から放出される放射性物質は、最もありそうもない原因といえるでしょう。 |