低線量放射線に対するマウスの適応応答
-放射線防護の中での位置づけ-

 

カナダ原子力公社チョークリバー研究所
放射線生物学・保健物理学部門長
Ronald E.J. Mitchel


 LNT仮説に矛盾する多くの実験データがある。これらのデータを検討することによってLNT仮説の妥当性を考える。

1) ヒトリンパ球のコンカナバリンA刺激によるIL-2受容体の発現増加。

  
非照射細胞
照射細胞
50%非照射細胞+ 50%非照射細胞
24時間後
7.7%
17.8%
22.6%
48時間後
32%
42.5%
41.5

照射細胞では有意に上昇している。非照射細胞を混合しても照射細胞のみの場合とほとんど変わらないのはバイスタンダー効果か。

 

2) 前照射による染色体の修復

 

3) 染色体の傷害の修復能が前照射によって変化

 

4) 低線量率の前照射による細胞の変異の抑制(エラーなし修復機能の誘導)

照射
突然変異頻度
非照射
3.7(×10-4)
4Gy(高線量率)
41

100mGy(低線量率)+4Gy(高線量率)

16

 

5) 変異細胞の自然発生に対する低線量率 (2.4mGy/min) 照射の抑制作用

照射
突然変異頻度
非照射
1.8(×10-3)
1.0mGy
0.62
10mGy
0.39
100mGy
0.49

 

6) 放射線による細胞の変異発生頻度の線量依存的変化
  100-300mGyを境に作用が変化する。

 

7) マウス皮膚腫瘍の抑制

処置
腫瘍の数/マウス
methyl-nitro-nitroso-
guanidine(MNNG)
2.04
ベータ線照射
0

ベータ線照射+MNNG

0.39

 

8) 骨髄性白血病(ML)の発生に対する前照射の抑制効果

1Gy照射ではML発生(陽性)となる。100mGy前照射では発生頻度に変化はなかったが、潜伏期間が延長した。

 

9) 放射線傷害におけるp53の役割

 

10)自然発生骨肉腫に対する照射の影響
   p53 heteroマウス(がん自然発生が高頻度で起こる)

 

10mGy照射では潜伏期間が有意に延長された。一方100mGy照射では潜伏期間が短縮された。10mGy〜100mGyの間に作用の変換点がある。

 

11)自然発生リンパ腫に対する照射の影響

この場合は10mGy、100mGy共に潜伏期間の延長効果が得られた。

 

12) マウス胎児の尾の形成障害(奇形発生)に対する照射の効果

受胎11日目のwildとp53 heteroマウスに300mGyを前照射し、24時間後に4Gyを照射した。

18日目に胎児の尾の長さを測定した。この形成障害はp53依存性のアポトーシスおよび非依存性アポトーシスによるものと考えられる。300mGyの前照射はこれらのアポトーシスによる細胞死を抑制することで障害を軽減した。

 

13)精原細胞の放射線誘発突然変異に対する前照射の効果

 

まとめ

低線量放射線の前照射は

  1. 射線誘発がんの発生
  2. 自然ながんの発生
  3. (放射線誘発)奇形の発生
  4. 生殖細胞の(放射線誘発)変異の発生
を軽減する。以上の結果より、LNTは正しくないと結論できる。

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