放射線防護における個体レベルの研究の重要性
原子力安全委員会
委員長代理 松原 純子
LNT仮説は防護のために用いられる場合には正当だ。しかしこれを放射線の生物影響と混同してはならない。放射線の生物影響に関しては、専門家は放射線生物学的な知見を総合的に判断して、現実に即した見解を提示するべきである。しかし、放射線生物学的研究における様々な問題点がある。
1.問題点
LNT仮説は広島長崎の原爆被害者の急性被ばくデータに依存している。
- 応答に個人差がある。データを集団として統計処理するとしきい値が不明瞭になる。
- 調査サンプル数が小さいため有意差が得られにくい。
- ヒトの発がんでは放射線のみの影響を分離できない。
- 放射線影響の説得力のあるデータを得るためには非常に制御された環境での実験が必要。
- 細胞やDNAレベルでの研究に比べ、個体レベルの研究、研究者は少ない。
- 個体全体としての応答は細胞レベルに比べて、理解されにくい。
2.研究の実態
- 50mSv以下の影響は大規模な疫学調査でも明らかになっていない。
- 傷害と防御のバランスを個体レベルで研究することが重要。個体レベルでの防御機構の存在が示唆される研究がいくつかある。
3.今後必要とされる課題
- 分子生物学的レベルと個体レベルの知見から放射線影響を総合的に評価する。
- 個体の防御機構とその作動条件を解明する。
- 低バックグラウンド環境での動物実験
- 疫学研究
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