ICRPの基本理念の変化―防護理論と原則の進展

ICRP委員長
英国放射線防護庁委員長
R.H.クラーク

 放射線がレントゲンによって発見されてから、100年を経過し、医学・産業にと広範に利用されています。放射線防護基準がこの間にどのようね進展してきたかを辿ってみますと、次のようになります。

 

1934年 国際X線・ラジウム防護委員会(IXRPC) 安全性の閾値があると考えた
1951年 国際放射線防護委員会(ICRP) 同   上
    1955年までは皮膚がんなどの確定的影響が出る閾値以下に被ばく線量を押さえることが目的
1955年   ◇人生に置いて人が生涯に出会う他のリスクよりも放射線によるリスクを低くする
◇被ばく線量は合理的に達成出来る限り低くする
◇リスクの受け入れ可能性が追求された
1977年 ICRP Pub.26勧告 正当化:便益があること
最適化:合理的に達成可能なレベル
線量限度:適切な線量を守ること
集団線量:どのくらいのコストが掛かるか。どのくらいの人が助かるのか
(個人リスクは注目されなかった)
1990年 ICRP Pub.60勧告 受入れることの出来ないリスクレベルとの観点で公衆あるいは職業人のリスクを検討した
集団の防護を考え、被ばく線量を平均でみるもので、個人線量に視点を移すと線量が高いこともある。

 

 1999年に出された次に出される予定の勧告案では、最適化は個人の線量から拘束されるべきであり、個人ベースの線量が過剰にならないことが重要と考えています。また、従来から提唱されてきた集団線量については、社会的に解釈の誤解が多々見られるようなっていることが指摘されています。この勧告案では、防護は平等主義の原理を取り、規制はバックグランドレベルを基準にし、防護の考え方は被ばくが正当か?防護レベルは妥当か?最適化は?の順で、行うこととされています。規制の線量区分については、クラーク・レベルという案が次のように提案されています。

 

重大なレベル

>100×自然レベル

高レベル >10×自然レベル
自然レベル 1〜10mSv/y(自然バックグラウンド放射線レベル)
低レベル >0.1×自然レベル
些細なレベル >=0.01×自然レベル
無視できるレベル <0.01×自然レベル

 

 今後の防護活動開始レベル(Protective Action Level)というものは、幅広く適用できるものにする必要があります。また、職業被ばくや医療被ばくを対象にした作業被ばく線量(Work Force Dose)も考える必要があるでしょう。発がんリスクの算定には実効線量を用いることが考えられます。さらに、今後は、非発がん性障害のリスクや遺伝的感受性によるリスクの変動なども考えることが必要となるでしょう。


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