K.Becker(独) ラドン療法はおそらく人類の最古の療法のひとつである。オーストリアのバドガスタインの最も高濃度のラドン源泉近く、5000-6000年前の奉納物が発見された。古代ローマ人や他の古代人はラドン泉を利用していた。そして日本の三朝温泉(160000Bq/l)は800年もの間使われてきた。現在年間75000人の主としてリウマチや強直性脊椎炎などの関節痛や背骨の障害をもつ患者が、ドイツやオーストリアのラドン泉、そして他の国々特にロシアで、高濃度のラドン泉の吸入(たとえばバドガシュタインでは170000Bq/m3または現在の米国環境庁(EPA)の住居ラドン基準の1000倍)や飲んだり、浸かったりして治療している。費用(たとえばバドガシュタインでは10時間で500ドル)はたいてい健康保険でまかなわれている。放射線に強い抵抗を感じているUSAでさえ「Free Enterprise Radon Health Mine」は半世紀に亘って盛況である。 無作為二重盲検を含む多くの臨床テストは、処置後数カ月にもわたって効果が持続する同様の治療の中では、非常に優れていることを示した。たった1mGyでさえ発揮するこの効果について様々な機構が考えられた。修復酵素やラジカル捕捉酵素の活性化、神経ペプチドの生産などがいわれているが、まだ未知の領域である。しかし、放射線に対して極端に神経質でほとんど放射線アレルギーとさえいえるドイツ当局にも、実際の治療実績や患者の賛同によりこの治療法は容認されるようになった。したがって、ドイツ・サキソニーのバドシェルマのラドン泉が3年前に再開され、戦前のように人気を博しているのも驚くには値しない。 このラドン療養所の再開というのは、旧ソ連が1945年から1990年の間に220000トンのウラニウムを掘り出し、またそのラドン除去のために60万USドルも費やした世界最大のウラン採掘地のど真ん中でのことだった。Poracelsusが1573年にはじめて坑夫たちの間の高い肺がん発生率のことを記録したのはこの地でのことだ。これはその後1913年にその地方のある内科医によって砒素ならびに坑中の極めて高い濃度のラドン(200万Bq/m3もしくは数Sv/年にも達する場合がある)によるものとされた。そのような高濃度ラドンはおそらく鉱石粉やディーゼル排気ガス、酸化窒素ガスの吸入やγ線そして喫煙などの因子と一緒になって、何十万人もの戦後の坑夫たちの間での数千件の肺がんの原因となっただろう。しかし、そのラドンの作用にしても1945-1955年のこの地の坑夫のデータの見直しにより、むしろ他の吸入物質の作用の方が大きいのではないかといわれている。 この地域のいくつかの家屋ではラドン濃度100000Bq/mが観測されており、すべての家屋の12%はEPAの基準を100倍も上回っている。しかし、坑夫たちの高線量被ばくデータを何桁も低く、全く状況の異なるこうした一般家庭にあてはめようとするICRPのLNT仮説とは逆に、非常に注意深く行われた疫学調査は1000Bq/mまたはEPA基準の7倍も高いレベルまで発がん作用は一切見い出すことはできなかった。ドイツでのある調査では住民の肺がんのわずかな増加が見られたものの、もうひとつの調査では1000Bq/mをしきい値とし500Bq/mではわずかな減少を示した。 この違いは簡単に説明がつく。後者では、対象を高ラドン地域でのこれまで一度も喫煙経験のない女性に限定することによってラドン調査の難点を排除した。実際、ドレスデンでの大規模なたばこ生産は、それまで0.06%だった肺がん発生率を現在その100倍にも引き上げてしまっている。さらに、喫煙者、特に肺がんと診断された喫煙者は自分の過去の喫煙本数を少なめにいう傾向があり、日に2-3本の差異は肺がん調査においては重大な誤りを招きうるのである。 しかし、他にもこの種の調査には問題がある。疫学調査の不備、過去のラドン濃度計測の信頼性、肺への照射線量の推算(5倍くらいの差は容易に生じる)、肺がん発生のα粒子のRBEを20ではなく2としたデータや、外部低LET被ばくによる肺がんのしきい値を2Gyとしたことなどが挙げられる。他にも、例えば線量ではなく線量率が作用を決定するのか、また高線量と低線量に対する生物の応答の差異についてなど重要な問題がある。 さらに、高自然放射線地域は低自然放射線地域に比べて肺がんのみならず、子供の白血病を含む他のがんの発生率が低いという最近の調査がある。同様の効果は最近インドのカララやロシアでも得られている。 地上のラドンに関しては、結論として次のことが言える。
すべての入手可能なデータから、初期の坑夫のいくつかの例外を除いて、ラドンの人の健康に対する影響は害よりは益をなすものと思われる。
References
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