75歳までの累積リスクを見積もった。用いたものは、被ばくによる発がんリスクのモデル、診断用エックス線に被ばくする頻度の推定値、診断用エックス線による臓器の被ばく線量の推定値、15か国の発がん率と死亡率データである。
放射線被ばくによる発がんリスクモデル
食道がん、胃がん、大腸がん、肝がん、肺がん、膀胱がん、甲状腺がんに関しては、UNSCEARによる日本の原爆生存者データに基づいた直線モデルを用いた(過剰相対リスクモデル)。この中で肺がんは原爆生存者の喫煙と被ばくの分析によるモデルを用いた。
白血病と乳がんでは過剰絶対リスクモデルを用いた。慢性リンパ性白血病を除く白血病では日本の原爆生存者データに基づく直線-二次モデルを用いた。乳がんでは原爆生存者データを含む4つのコホート調査のデータの集積分析による直線モデルを用いた。肺がんのモデルでは性別と調査時の年齢を考慮した。他のすべてのモデルでは性別と被ばく時の年齢を考慮したが、白血病と乳がんについては調査時の年齢も考慮した。
英国での被ばく頻度
診断用エックス線への被ばく頻度は、UNSCEARの2000年報告書の中の1991-1996の調査データに基づいた。しかしこの中には年齢と性別による頻度のデータはない。この点に関しては、1977年のKendallらの調査データがある。そこでこれら二つのデータを組み合わせて、年齢別、性別による被ばく頻度を推定した。
CTスキャンに関しては、同様に1989年のShrimptonらの調査データとUNSCEARデータを組み合わせた。 マンモグラフィーではNHSの乳がん検診プログラムのデータを用いた。それによると、50-64歳の女性の70%は3年毎に検査を受けている。
英国での臓器被ばく線量
臓器線量を1993-1996年のフィンランドの調査と2000年のHartらの調査データとを組み合わせて推定した。CTスキャンに関しては、Shrimptonらのデータから、マンモグラフィーによる乳房の線量はYoungらの1997-1998のデータを用いて推定した。表1には27種類のエックス線検査による臓器被ばく線量を示した。これらのデータから年齢別、性別の年間被ばく線量を推定して、プロットした。
他のがんの場合のリスク推定
上記9種類のがんに関しては、リスク計算に必要な情報は取得できるが、他のがんに関してはそのような情報はない。そこで全固形がんおよび白血病を合わせた全体としてがんリスクを求めるために、上記9種類のがんの発生の中の診断用エックス線被ばくに起因するがんの割合を、その他のがんの場合にも同じと仮定して当てはめてリスクを推定した。この中で慢性リンパ性白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫は放射線被ばくによって起こるとは考えられていないので除外した。
英国での発がん率と全(原因)死亡率
Parkinらの年齢5歳区切りのイングランドとウェールズの発がん率(1988-1992)を用いた。肺がんに関してはPetoらのデータを用いた。1998年の英国全(死因)死亡率データを用いて生存率を計算した。
英国のリスク計算結果の妥当性の検討
仮定条件を変えて以下のように検討した。
英国以外の国々のデータ
ヘルスケアレベル1(人口1000人につき1人以上の医師がいる)の国々の累積リスク推定を行った。これらの国々に関しては英国と同じように、エックス線被ばく頻度、発がん率、全死因死亡率などのデータが入手可能である。しかし診断用エックス線被ばく頻度の年齢別、性別の分布と臓器被ばく線量は英国のデータをそのまま用いた。USAに関しては、CTスキャン頻度とエックス線検査全体の頻度のデータしかないため、英国のデータをもとに計算して推定した。日本に関しては、CT検査の年間頻度データが全くないため、ヘルスケアレベル1の国々の平均値を用いた。マンモグラフィーの頻度はオーストラリア、フィンランド、オランダ、スウェーデンとUSAに関して、50-69歳の女性の70%が2年に一度の検査をすると仮定した。