東海村のJCOのウラン加工工場で臨界事故が起ったとき、事故現場から離れた周辺の住民の約200名が事故による放射線を0.1〜21ミリシーベルト受けたと推定されています。このうち、1ミリシーベルト以上受けた人に対しては、放射線による健康影響は小さくて検出できないでしょうが、年一回健康診断をするということを政府は決めています。

 放射線の急性致死量より少ない量、例えば1シーベルト受けると、原爆放射線の場合は、あとになって毎年0.2%の人ががんで死亡しています。

 では、100ミリシーベルトを受けた場合のがん死亡リスクはどのくらいでしょうか?原爆放射線を受けた人の調査結果を図1に示します。固形がんの場合(図1A)は、100ミリシーベルトのがん死亡率は放射線を受けない場合の死亡率より少し高いですが、死亡率推定値の誤差が大きくて放射線のリスクがあるとは断定できません。白血病の場合(図1B)、100ミリシーベルトの死亡率は、放射線を受けない場合の死亡率より低いので、100ミリシーベルトの危険はないことになります。

 

 


図1  原爆放射線を受けた人たちにおける固形がん死亡率(A)および
  白血病(B)と被ばく線量の関係 MP Littleand CR
  Muirhead:Ins J RadiatBiol Vol 70, 83-94(1996)

 

 原爆放射線のリスクは瞬時に被ばくした場合ですから、自然放射線のように少しずつ被ばくする場合のリスクは、図1Aと違う可能性があります。この問題には、中国広東省の「高い自然放射線地域」と「普通地域」での1979−1995年間のがん死亡率の比較調査(菅原努:環境と健康、Vol.13,285-294,2000)で貴重な結果が出ています。

 「高い自然放射線地域」を外部の放射線の強さで高、中、低の3群にわけたとき、高線量域では年間2.46ミリシーベルトで、普通地域は年間0.68ミリシーベルトですから、平均寿命を60歳とすると、生涯被ばく量が高線量域では普通地域より100ミリシーベルト多いことになります。100ミリシーベルト余計に被ばくしている高線量域の人達の固形がん死亡率は、普通地域の死亡率を1としたとき、0.90(0.75〜1.08)という調査結果です。すなわち、自然放射線を100ミリシーベルト余計に受けても、がん死亡率が増加する危険はないということがわかりました。

 白血病の場合は、原爆放射線による瞬時の被ばくでも、100ミリシーベルト以下なら発病して死ぬ危険はない(図1B)ことがわかりました。しかし、固形がんの場合は、原爆放射線を100ミリシーベルト受けた場合の死亡率は、もしがん死亡率が被ばく線量に直線比例すると仮定すると、この仮定の予測にほぼあ合った値になります。従って、国際放射線防護委員会の勧告では、100ミリシーベルトでもがんのリスクがあると主張しています。

 中国広東省の高い自然放射線地域の住民のがん死亡率に対する1979年以来の調査結果が貴重な証拠となるのです。この調査によると、高い自然放射線地域に住んでいる人は、普通地区の人より、生涯の被ばく量が100ミリシーベルト多いにも関わらず、固形がんの死亡率が高くないことがわかっています。従って、"100ミリシーベルト以下ならがんの心配はいらない"ということには立派な証拠があるのです。

(引用資料の原著は近藤宗平:「人は放射線になぜ弱いか」
講談社ブルーバックス(1998)に譲る)


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